ABABが閉店へ、激安の街・上野は今後生き残れるか エンタメだった「激安」は明らかに変化している

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そういえば、上野に行って思い出したことがある。かつて、安い服を探しに出かけたもう1つのエリアが、中野だった。今はずいぶん様変わりしたが、中野ブロードウェイやその周辺に掘り出し物が買える店がいくつかあった。

その頃の上野と中野には共通点があった。周囲の飲食店などで働く外国人の姿が多かったのだ。ご存じのとおり、コロナ前まではアジア系の出稼ぎ労働者に頼っていた飲食店が多かった。昔はそうした外国人たちが上野や中野の店で買い物をする姿をよく見かけたものだ。当時は支払われる給料も今よりもっと低かっただろう。1000円以下で服が買える店は貴重だったに違いない。

しかし、今回そんな服を買っているのは日本人ばかりだった。かつての外国人労働者のように、安い賃金で働き、安いものを買っているのはわれわれのほうなのかもしれない。

エンタメだった「激安」は単なる日常に

ABABで安く買えるのは衣料品だけではない。ネックレスなどのアクセサリーも300~500円程度で買える。しかし、かつては「安い!」と目を輝かせた値段も、今や驚きはない。3COINS(スリーコインズ)などの300円均一ショップや、中国発のネットショップSHEINでよく見る当然の価格になってしまったからだ。

われわれの給与が伸びない間に、均一・激安ネットショップはどんどん拡大して陣地を広げ、それまで若者相手に安さを提供していた小売店を凌駕してしまった。ABABのライバルは、すぐそこにもいたのだ。安値のガリバー王たるダイソーが、ABAB上階にテナントとして鎮座しているのも皮肉と言えば皮肉だ。

ABABを出て、いつものように「二木の菓子」に向かったところ、以前なら安いと感じた価格も、業務用スーパーやディスカウントストアに並ぶ値札とどっこいどっこいになっていた。長らく景気が低迷する間に、安さを武器にする業態がどんどん増えてしまったのだ。かつて「安さ」は一種のエンタメで、その値札を見て楽しむのが上野の作法だったのだろう。それが今や、安価だけがわれわれの周囲に氾濫し、「激安」を楽しむ余裕すらなくなったのかもしれない。

しかし、気づいたこともある。今回ABABはじめ、いくつかの店で買い物をしたが、どこでもさっと商品を手提げ袋に入れてくれたのだ。もちろん、無料で。今どきは衣料店でも袋は別料金という店は珍しくない。ましてや食品店では必ず聞かれる。

いやいや、価格に袋代まで含まれているんだろうなんて意地悪な見方は間違いだ。どの店も、十分に安い店である。値段は安くするが、袋代なんてケチな金は客から取るもんか──そんな上野の矜持をほのかに感じた。時代は令和に変わっても、好きな街であることに変わりはない。懐かしい「安さ」を楽しむために、また訪ねたい。

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松崎 のり子 消費経済ジャーナリスト

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まつざき のりこ / Noriko Matsuzaki

20年以上にわたり『レタスクラブ』『レタスクラブお金の本』『マネープラス』などのマネー記事を取材・編集。家電は買ったことがなく(すべて誕生日にプレゼントしてもらう)、食卓はつねに白いものメイン(モヤシ、ちくわなど)。「貯めるのが好きなわけではない、使うのが嫌いなだけ」というモットーも手伝い、5年間で1000万円の貯蓄をラクラク達成。「節約愛好家 激★やす子」のペンネームで節約アイデアも研究・紹介している。著書に『お金の常識が変わる 貯まる技術』(総合法令出版)、『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない』(講談社)、『定年後でもちゃっかり増えるお金術』(講談社)。
【消費経済リサーチルーム】

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