ABABが閉店へ、激安の街・上野は今後生き残れるか エンタメだった「激安」は明らかに変化している

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世の中には2種類の安いものがある。1つは、もともと安く売る前提で製造されるもので、100均やユニクロなどの商品が代表格だ。もう1つは、元の定価は高いが値引きや2次流通に回ることで安く売られているものだ。

「ハトヤ」で扱う衣料品は、デパートなどに卸しているアパレルメーカー製が多い。サンプル品や余剰在庫を大量に買い取ることで、大幅な値下げが可能になる。元値はデパート価格の洋服が、破格の安値で買えるのはそれが理由だ。

元値は1万6000円の値札が付いている女性ものスーツが、4000円ほどで売られているのだから、実に7割引きにもなっている。高見えの激安服どころではない。本当に元値は高く作られているのだ。

問屋が多かった上野は、現金大量仕入れで安く売るという商売がよく似合う。とくに女性ファッション衣類はコロナで外出自粛が続いたため、アパレル各社は大きなダメージを受けた。在庫を抱えているより少しでも現金化したいのが本音だろう。

それでも、しばらく行かないうちにもっとあった安い服の店がずいぶん減っていた。ハトヤも営業を続けているか心配だったが、まったくの杞憂だった。キャッシュレス決済やアプリにもしっかり対応している。ディスカウント品を買う時は客も現金払いが当たり前という認識は時代遅れになったらしい。

対してABABのテナントに入っている店は、ハニーズなど最初から定価を安めに抑えているスタイルだ。アイテムを見れば、ターゲットとする客層がかなり若いのがわかる。店にもよるが、価格帯は1000~1980円でトップスが買え、20代の会社勤めの女性が手に取りやすいデザインだ。靴やバッグの店も入っており、どれも手頃。自分がその年代のころに愛用したファッションビルの風景が、そっくりここにある。じわりと懐かしい。

ファッションを楽しみたいけれど財布の中身が限られている若者世代にとって、ABABのような店は貴重だったろう。しかし、時代は変わった。フリマアプリを日常的に使っている彼らは、出かけなくても安く服を手にすることができるようになった。一度着てみて、飽きればまた売ればいい。服も靴もバッグも、すべてスマホの中にある。小遣いが少ない若い女性に安価なファッションアイテムを買ってもらおうとしてきたABABだが、そこに強力なライバルが立ちはだかった──という事情もあるのではないか。

安く買えるエリアにあった共通点

モノの価格は、その店に来る消費者の財布に合わせてつけられるともいえる。デパートがスーパーに比べて高値のものを並べ、回転ずしと有名寿司店のマグロ価格がまるで違うのもそれだ。

先に書いたように、若者層が集まるエリアはモノが安い。かつての109もそうだったし、人出が復活して大混雑の原宿竹下通りでも1000円前後で洋服が買える。リアルに品物を見ながら安い買い物を楽しみたいなら、若者が集まるエリアがねらい目なのだ。

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