飲食店が「脱マスク」に踏み切れない3つの理由 コロナ5類へ移行でもなかなか踏み出せない

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QSCで大切なのが、3つのうちどれか1つでも欠けたら、その効果が薄くなってしまうことだ。例えば、どんなにスタッフのサービスがよくても、料理の品質が悪ければ、その店に2度と行かない人がほとんどだろう。また、料理がいくらおいしくても、店舗に清潔さがなければ、再来店の可能性は著しく減ってしまう。

QSCは顧客満足に直結する大切な指標となっており、最近では「Hospitality(おもてなし)」や「Value(価値)」を加え、店の付加価値づくりに注力する店が増えている。

コロナ禍では、クレンリネスの項目に、感染対策がされているかどうかが加わった。実際、リクルートの調査・研究機関「ホットペッパーグルメ外食総研」が2020年6月から定期的に実施している「外食実態調査」では「席の間隔が空いているか」「店内に消毒用アルコール等が用意されているか」「従業員のマスク着用の徹底」の3つは店選びのポイントとしてつねにトップ3にランクインしている。

2023年2月に調査した「第9回 外食実態調査」でもその傾向は変わらない。コロナ禍では「飛沫」という単語がよく聞かれたことで、飲食店で飛沫が飛ぶシーンも可視化された。だからこそ、マスクをはじめとした感染対策を行っていないことが気になってしまう背景もあるだろう。

清潔がどうかを判断するのは、あくまでも客だ。世間のマスク着用率が高い以上、飲食店側としてはなかなかマスクを外しづらい。この問題は、2と絡み合うことでさらに複雑さが増す。

世間の目をおそれる風潮は強まったまま

2. 世間の反応への過度な迎合

コロナ禍では「自粛警察」や「マスク警察」という言葉が生まれ、自粛や感染拡大の防止に協力しない個人や企業がSNS上で炎上することがたびたびあった。飲食店でも「スタッフが顎マスクだった」や「緊急事態宣言下なのに20時まで明かりがついていた」といったクレームを、グーグルのクチコミに書き込まれるケースが増えた。中には、アカウントを変えて執拗なクレームを受けるケースもあり、コロナ禍でクチコミに対して神経質になった飲食店は多い。

コロナ禍を振り返ると、1回目の緊急事態宣言のときは「応援消費」という言葉が盛んに使われるなど、営業ができなくなった飲食店を支える動きが目立った。しかし、時短協力金などが支給されると一気に流れが真逆となり、他業界よりも優遇されているという理由で、今度は外食業界全体が叩かれるようになった。そうした苦い経験もあり、業界全体が世間の反応に対して神経過敏になっていることは否めない。

今後もしばらくはマスクを付けていることで受けるクレームよりも、外していることで受けるクレームのほうが多いだろう。現に8日以降も、マスクをしている人のほうが目視でも多数派を占めている。その中で、すべての感染対策を現場から撤廃するのはなかなか難しい。その気持ちは次に説明する3の事情が加わることで、さらに強くなっているといえる。

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