「コレステロールの摂り過ぎは悪い」はウソ? 市場規模2700億円の治療薬に影響はあるか
「お父さんはコレステロールが高いから、卵の黄身やウナギはあまり食べちゃいけないよ」――そんな会話が今日も日本のどこかから聞こえてきそうだ。「コレステロールの摂りすぎは体に悪い」というのが一般市民の共通認識に育った中、日米政府は「十分な科学的根拠がない」として、コレステロールの摂取基準を撤廃した。
まず動いたのが日本の厚生労働省。2014年3月に取りまとめた「日本人の食事摂取基準(2015年版)」策定検討会の報告書で、2010年版で18歳以上の男性は1日750mgまで、女性は600mgまでと設定していたコレステロールの摂取目標量を、2015年版には取り込まないと決めた。
米国の保健福祉省と農務省の諮問委員会も、今年2月に公表した「米国人のための食生活ガイドライン」の策定に向けた報告書の中で、従来1日300mgまでとしてきたコレステロール摂取基準を削除する方針を固めた。
食事から摂るコレステロールは2~3割
報告書でのコレステロールの摂取に関する記述はわずか5行。「食事からのコレステロール摂取と血清コレステロールにはっきりした関連があることを示した研究はない。コレステロールは過剰摂取を懸念すべき栄養素ではない」と言い切った。5月まで国民からの意見を受け付けており、それ以降にガイドラインが正式決定される見込みだ。
日米政府の動きが示すように、食事から摂取するコレステロールが、血中コレステロールを大きく高めたり、心筋梗塞などの発生率を高めたりするという科学データは得られていない。体内のコレステロールは7~8割が肝臓など体内で合成されたものであり、食事から摂るのは2~3割にすぎない。人には食事で摂りすぎれば体内の合成量を減らし、逆に摂取量が少なすぎれば合成量を増やすなどの調節機構があるほか、食事中のコレステロールの影響度合いには遺伝的要因もからむ個人差が大きい。そのため、少なくとも健康な人に対して一律にコレステロールを制限する理由はないというのが、日米政府の一致した見解だろう。
ただ、食事中のコレステロールの摂取基準が撤廃されたことで、健康診断などで測定される血中コレステロール値がどうなってもよいというわけではなさそうだ。
日本における脂質異常症の診断基準を作っているのは、専門医からなる日本動脈硬化学会だ。同学会は「動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2012年版)」の中で、LDL(悪玉)コレステロールが血液0.1リットル(dL)当たり120~139mgを境界域高LDLコレステロール血症、140mg以上を高LDLコレステロール血症と定めている。厚労省の「国民健康・栄養調査(平成25年)」から推定すると、この基準では49~79歳の男性の約3分の1、女性では約半数もの人が脂質異常症ということになる。
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