「コレステロールの摂り過ぎは悪い」はウソ? 市場規模2700億円の治療薬に影響はあるか

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厳格に思える基準について、日本動脈硬化学会でガイドラインを担当する大阪大学大学院医学系研究科の山下静也教授は、「血中LDLコレステロールが120mg/dL以上の人全員が薬物治療をしなければいけないわけではなく、リスクが高い人に警鐘を鳴らして、運動習慣や喫煙等を見直してLDLコレステロール値を下げてもらうという意味がある」と説明する。

山下教授は、「血中のLDLコレステロール値が高いと狭心症や心筋梗塞などのリスクが高まることは、膨大な数の論文で示されている」と話す。典型例として挙げるのが、水泳の北島康介選手のライバルだった、ノルウェーのアレクサンドル・ダーレ・オーエン選手。ダーレ・オーエン選手は26歳で動脈硬化による心筋梗塞で急死したが、家族性高コレステロール血症で、遺伝的に血中LDLコレステロール値が非常に高かった。

高脂血症剤の国内市場規模は約2700億円

LDLコレステロールを下げるという治療方針の下、世界で最も広く使われている薬が、スタチンというジャンルのLDLコレステロール合成阻害剤(クレストール、メバロチン、リピトールなど)だ。2014年の国内市場規模は約2700億円(バークレイズ証券推定)と一大市場を築いている。

スタチンは1973年に日本人によって発見された歴史の長い薬剤で、心筋梗塞などの発症リスクを下げるために世界中の脂質異常症患者に投与されてきた。長年、世界売上高ランキングでトップを占めていた、超大型医薬品だ。

そんな製薬会社にとってのドル箱市場が、特許切れラッシュの危機にさらされている。ピーク時に世界で1兆円を超えていた米ファイザーのリピトールの売上高は、2011年以降の後発品の侵食で2014年は20億ドルまで落ち込んでいる。塩野義製薬と英アストラゼネカが販売するクレストールは、ピーク時売上高が約6600億円の大型製品だが、2016年に米国、2017年に国内などで特許切れを迎える。新薬メーカーがスタチンで稼ぎ続けるのには限界が見え始めている。

だが早ければ2015年内にも、新しい作用機序のLDLコレステロール低下薬が発売される見通しだ。「PCSK9阻害薬」といわれるジャンルである。肝臓が血中LDLコレステロールを除去する能力を低下させるPCSK9というタンパク質の働きを阻害し、肝臓によるLDLコレステロールの取り込みを促進するという作用機序を持つ。

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