G7が共同で経済安保戦略を実施する上で重要となるのは、第1に中国への経済依存を全面的に否定しないということである。
アメリカの一部の論者は全面的なデカプリングを主張する議論を展開するが、中国との経済関係を全面的に断ち切ることは現実的ではない。仮にデカプリングを実施したとしても、企業は何らかの形で迂回する方法を見つけることになるだろう。そうなれば、経済安全保障の措置は無効化されることとなる。
第2に、それでも戦略的物資に関しては、中国への依存を可能な限り減らすことである。
欧州各国や日本がロシアからの天然ガス供給に依存していたことで、ロシアのウクライナ侵攻後の対ロ制裁において、天然ガスを制裁対象とすることができなかった。ロシアが戦争を継続できなくするよう、天然ガスの輸出による政府収入を断ち切ろうとしたが、その効果は限定的なものに留まっている。
このように、戦略的物資への依存は経済安全保障上の脆弱性となる。中国が握っているG7諸国のチョークポイント(中国が大きなシェアを持つ重要物資)に関して、その供給源を多元化し、代替品を開発する努力をG7が共同で行うことが必要である。
第3に、中国のチョークポイントを握ることも重要である。半導体は西側諸国が技術的優位性を持ち、アメリカが主導する輸出管理体制の強化を進めることで、中国は半導体の開発・製造に歯止めをかけられることとなった。
半導体だけでなく、G7が持っている優位性は数多くある。それらに関して、中国が経済的威圧を仕掛けてきた際に、対抗できるための手段として、技術的優位性を維持することが必要である。
EUでは反威圧措置(Anti-Coercion Instruments:ACI)が採択され、経済的威圧に対して関税の引き上げや輸出入許可、公共調達の制限といった措置が用意されている。こうした対抗措置をEUが単独で行うのではなく、G7が共同で行い、経済的威圧に対する抑止効果を高めると共に、EUのACIには含まれていない、技術移転の阻止や輸出管理の強化といったことが含まれるべきであろう。
産業界の理解を得る必要性
最後に、こうした優位性を維持し、チョークポイントを握ったとしても、それを中国に対する圧力に転換できなければ意味がない。そのため、各国の法制度を整備し、中国の経済的威圧に対しては対抗措置をとることができる状況を作っておくことが重要である。
また、こうした経済的威圧への対抗は、産業界そして国民にも様々なストレスをかけることになる。そのため、G7各国で経済的威圧に対抗する措置を発動する手順をきちんと定め、それを事前に産業界とも共有し、彼らの利益を一部圧縮してでも、安全保障上必要な措置であることを理解してもらう必要がある。
これらの措置は、まさにG7が共同で自らを守るために必要なことである。グローバル化した市場において、一国だけで経済安全保障を実施することは不可能である。
それだけにG7各国や同志国と共に、信頼できるサプライチェーンのネットワークを作り、場合によっては共同で経済的威圧に対抗するための経済共同防衛体を作ることは、経済安全保障の分野で一歩先駆けた取り組みを行っている議長国日本がリーダーシップを発揮できるテーマであろう。
(鈴木一人/東京大学公共政策大学院教授、地経学研究所長)
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