このように、G7(繰り返すがEUも正式メンバーである)各国で経済安全保障に関する関心が高まっているが、国際分業が爛熟し、生産プロセスやサプライチェーンが広がる中で、一国だけで経済安全保障を実施することは困難である。
そのため、サプライチェーンの中で主要な役割を担い、中国やロシアが持たない技術を持つG7各国が協調して経済安保で歩調を合わせることは、その実効性を高める上で重要なことである。
マクロン訪中に見られる安保とビジネスのジレンマ
しかし、こうしたG7の協調による経済安全保障の共同実施に関して大きな懸念となっているのがフランスの立場である。
4月上旬にフォンデアライエン欧州委員長と中国を訪問したフランスのマクロン大統領は経済界の主要メンバー50人を引き連れ、エアバス160機の受注をはじめとする約400億ドル規模の契約を結んだと報じられている。
中国に対する経済依存のリスクが議論される場において、積極的に中国との経済関係の強化を推進し、中国市場への依存を強めることは、G7の共同歩調を乱すことになりかねず、中国に誤ったシグナルを送ることになる。
ただ、こうした自国産業の利益を優先しようとする誘惑は、どの国にもあることも留意しておくべきであろう。中国との経済依存を深めるリスクを懸念するあまり、中国との取引を控えることになれば、そこに市場の空白が生まれ、その空白を埋めに行くことで大きな利益を得られるからである。政治的な理由で巨大な中国市場から他国企業が撤退したのであれば、競争相手のいない市場に参入することができる。
つまり、G7で経済安保の共同歩調を取れば取るほど、抜け駆けによる利益を得ようとするインセンティブも高まるということになる。仮に政府が厳しく輸出管理を強化したとしても、企業は規制の抜け穴を探し、迂回することでビジネスを成立させようとする可能性もある。
同時に、そうしたビジネスからの要求が中国への依存を高め、安全保障上の脆弱性を高める結果となる可能性もある。こうした問題について、どのように対処すべきであろうか。
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