日曜劇場「ラストマン」トンデモ展開でも魅せる訳 福山雅治×大泉洋"バディ"の絶妙な上手さ

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人工知能を使うことで、視覚のハンディをカバーできるという、未来への希望を、皆実は担っている。彼の使用しているツールは、若干、SF的で、リアルな企業ドラマがウケる日曜劇場と近未来要素との相性については気になるが、急速に人工知能も進化している今、これくらいの近未来感なら親近感がある。

むしろこれからは企業ものに、最新テクノロジーを積極的に取り入れていくことも課題であろう。

余談だが、皆実が「(爆破現場に)集まった野次馬全員に個人IDを提出させてください」という場面があって、そのうち本当に日本でもこういうことになるのかもと、ぞくりとなった。

ボヤきながら他人に尽くす「大泉洋」がいい

さて、その斬新なFBI 捜査官とバディを組むのが、大泉洋演じる護道刑事。違法捜査も厭わず、周りから嫌われているらしき人物だが、そんなヤな感じには見えない。皆実に手を貸し、サポートしていく様子なんて、犯人逮捕に容赦ない人にはあまり見えない。

どうやら過去に何かあるらしく、優秀な兄に対するコンプレックスのようなものも抱え、それゆえ屈折しているだけであるようで、単に、犯人逮捕のためならなんでもやって手柄を横取りしていくダーティーな刑事ではないことはすぐにわかるようになっている。

大泉は嫌なキャラも似合うのだが、なんだかんだボヤきながら他人に尽くすような役も似合う。

人を食ったような天才性を発揮しまくる皆実と、困り顔しながら手助けする実直な護道はなかなかいいコンビだし、しかも、2人には何か因縁があることも匂わせる。そのキャラを誰も誤読しようもない。

初回の前半、「お別れする日が楽しみです」(護道)、「泣かないでくださいね」(皆実)なんて会話がなされ、最終回は2人がなくてはならないバディになりながらも別れが来て、泣いちゃいそうになるんだろうなあ、という予感も……。

初回でこれだけ、間違えようのない、お膳立てができていれば、たとえ各回の事件が多少ゆるくても気にならないし、2人の結末を見たくなる。日曜劇場は企業ものでなくても、安心感さえあればいい。

木俣 冬 コラムニスト

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きまた ふゆ / Fuyu Kimata

東京都生まれ。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。

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