「不登校になれてよかった」と思える3つの視点 学校に行けない「原因」を深掘りしてはいけない

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子どもが学校に行けなくなったとき、まわりの大人たちは、「こうなった原因はどこにあるのか」と原因探し、悪者探しを始めます。

父親は「おまえの育て方が悪かった」と母親を責め、母親は「あなた(父親)だって、仕事仕事で家のことをほったらかしにしてきたじゃない」と切り返す。あるいは、「クラスの〇〇くんがいじめたから」「それなのに〇〇先生がちゃんと対応してくれなかったから」。

対して学校側は本人要因を主張するという具合で、そこをなんとかすれば解決するという話になります。

しかし、そもそも「原因を取り除けば問題は解決する」という考え方が通用する物事のほうが実は少ないのです。

なぜ、いじめられていることを言わないのか

子どもがいじめられて学校に行けなくなった場合、そのことを本人はなかなか言いません。なぜなら、いじめによって友だちから「おまえが悪い」というメッセージをさんざん与えられているからです。「自分が悪い」から不登校になったと思えば、いくらまわりの人に聞かれても原因は言えません。

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ただし、いじめられていることを打ち明けて、その結果、その人が問題を解決してくれるという見通しがあれば話してくれるかもしれません。

いじめは学校で起きているわけですから、先生が動いてくれれば効果的ですが、そもそも「〇〇さんがいじめるから学校に行くのがつらい」と言えないから不登校になるわけで、先生に言ってもダメだと思えば、先生には話しません。

だったら親に言えばいいじゃないかと思うかもしれませんが、親にできるのは先生に連絡することくらいです。それを受けて先生に何ができるかと考えたとき、効果がないと判断すれば、当然、親にも言いません。

学年が変わってクラス替えがあり、いじめた子がよそのクラスになったり、「いまの学校が嫌なら転校しようか?」という話になっても、原因を話してくれない子は少なくありません。思い出すのもつらいような状況では、そのつらさを取り除いてくれる人でないと打ち明ける気になれないからです。

そんなとき親はどうすればいいか。原因を過去にさかのぼって取り除くことはできないわけですから、子どもの心に突き刺さったトゲの痛みを理解しようとすること、そのつらさに寄り添うことが大切です。

「ああ、そうだったの。つらい思いをしたのね」となだめてくれ、「大丈夫、人生にはいろいろあるからね」とゆったり受けとめてくれるような相手であれば、きっと子どもはきっかけを打ち明けてくれるでしょう。(小林正幸)

荒井 裕司 登進研代表

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あらい ゆうじ / Yuji Arai

さくら国際高等学校学園長、登校拒否の子どもたちの進路を考える研究会(登進研)代表。高崎経済大学経済学部卒業。高校再受験の予備校設立、不登校の子どもたちのためのフリースクール設立後、1992年「東京国際学園高等部」(サポート校)を創立。長野県上田市に教育特区による広域通信制(単位制)高校「さくら国際高等学校」を創立。長年にわたり不登校の子どもたちの心と学びをサポートし、個性を育む教育を実践。

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小林 正幸 東京学芸大学名誉教授

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こばやし まさゆき / Masayuki Kobayashi

臨床心理士、公認心理師、学校心理士、日本カウンセリング学会認定カウンセラー、カウンセリング心理師および同スーパーバイザー。専門は教育臨床心理学。筑波大学大学院修士課程教育研究科終了。東京学芸大学名誉教授。「登進研相談室」カウンセラー

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