ところが、泣いても誰も来てくれない状態が何日も続くと、赤ちゃんは泣かなくなります。泣いてもしようがないからです。つらくて泣き声を上げたら誰かが助けてくれたという経験を何度も何度もくりかえしてはじめて、私たちの中に人を信頼する力が生まれてきます。
こうして最初に生まれたお母さんへの信頼を「基本的信頼感」といいますが、これがベースになって、家族以外の人への信頼感が育まれていきます。
子どもが不登校という行動で、「つらい」「苦しい」「助けて!」というSOSを発信できたのは、その子の中にお母さん、お父さんへの信頼感がしつかり育っているからです。そして、「人に助けを求める力」もある。この力は、今後、子どもが社会で生きていくうえで、必ず必要になってくる大事な力です。
その子は不登校になることで、「助けて!」「お母さん、お父さんを信頼しているんだよ」と言ってくれているのです。
不登校は子どもにとってはプラスの面がある
②より大きなダメージから自分を守るための安全弁になる
たくさんの子どもたちと出会う中で、「もし不登校にならなかったら、この子は死んでいたかもしれない」と考えることがあります。その意味で、心から「不登校になれてよかったね」と思います。
一方、無理をして学校に行き続け、病気になったり、大変なケガを負った子がいます。うまく不登校になれないまま自分を追いつめ、苦しい現実から自分を守るために、心のシャッターを閉じて妄想の世界に逃げ込んでしまう子もいます。
不登校になっていたら、そこまでいかずに済んだかもしれないと考えると、不登校は、その子を早めに救ってくれるサインであり、その子の苦しさの安全弁となって、その子を守ってくれているのかもしれません。
③医療機関や相談機関にアクセスするための入場券を手に入れる
子どもの調子が悪くなると、「病院や相談室に連れていこうか」という話になるわけですが、逆にいえば、具合が悪くならなければ、その子は専門的な目で自分を受けとめてもらえる場には行けなかったということです。
心の中はぐしゃぐしゃでも、はた目には元気そうに学校に行っている子どもを、お医者さんに診てもらおうとは思いませんよね。不登校になったことで、その子は医師や相談員にちゃんと受けとめてもらえる「入場券」を手に入れたことになるわけです。
お母さん、お父さんにしてみれば、「不登校」はまずい問題だし、困ったことではあるけれど、実は子どもにとってはプラスの面がある。それがわかると、子どもの見方も少し変わってくるのではないでしようか。(海野千細)