「自由化の精神」を無にした大手電力の重大な責任 橘川・国際大副学長に聞く「カルテル問題」の本質

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グローバル展開をしている企業であれば、一度や二度、欧米で法律違反を問われ、痛い目に遭っている。あるいは同業他社がペナルティを科されている。大手電力会社はそうした経験がないため、ほかの産業とは意識の面で異なっている。

――公取委によれば、各社の代表取締役クラスから部長などの幹部に至るまで幅広い層がカルテルにかかわっていたといいます。関電では2018年秋、当時の岩根茂樹社長や経営企画担当の森本孝副社長(当時、その後社長、現在は特別顧問)、営業担当の彌園豊一副社長(当時)が出席する会議でエリア外での営業活動を縮小することや、そのことを他社に伝達する方針を決めたことが明らかになっています。

橘川武郎(きっかわ・たけお)/国際大学副学長。東京大学教授、一橋大学教授、東京理科大学教授などを経て現職。研究分野はエネルギー産業論、日本経営史。経済産業省・総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員。近著に『メタネーション』(共著) (撮影:尾形文繁)

関電の現経営陣は、岩根氏ら旧経営陣に責任を被せている感がある。関電は「若返り」を理由に昨年6月に森本氏から現在の森望社長にバトンタッチすることで、責任問題を回避している。

中国電力では700億円を超す課徴金納付が命じられ、清水希茂会長、瀧本夏彦社長の両氏が引責辞任に追い込まれた。

他方、グループ総額で275億円もの課徴金納付命令が出された中部電は、取消訴訟を通じての徹底抗戦の構えを見せている。安易に認めてしまうと株主代表訴訟を提起されることを恐れているのではないか。

いちばん微妙なのが九州電力。原子力発電所は現存する4基とも稼働にこぎ着けており、再生可能エネルギーの導入量も多く、コスト競争の面での優等生。カルテルの必要性はなかったと考えられる。公取委の発表当日に池辺和弘社長が記者会見せず、説明責任を果たさなかったのは解せない。

罰則や監視体制の抜本強化が必要

――業界団体である電気事業連合会にも公取委はコンプライアンスの周知徹底を求めて申し入れをしました。

大手電力10社が加盟する電事連は法人格を持たない任意団体で、閉鎖的な風土が長年批判されてきた。今回、電事連が開催する会合の機会や、電事連に出向した経験のある者同士が出向時に構築した業務上の関係を利用して、カルテルにつながる情報交換をしていたと公取委は指摘している。

九電の池辺社長は電事連の会長を務めており、批判は免れない。かといって池辺氏に代わる経営者もいない。任意団体という組織のあり方も見直す必要がある。

――中部電は取消訴訟を提起する方針です。中国電や九電も提訴を検討しています。

カルテルを認めて課徴金を支払えば、会社に損害をもたらしたとして株主代表訴訟の対象になる。認めずに訴訟を提起しても、法廷で誰が何をしてきたかについてつまびらかにしなければならない。公取委からは違法行為の裏付けとなる証拠を突き付けられる。いずれにせよ、苦しい立場に追い込まれる。

カルテル以外の問題もくすぶっている。

公取委は経済産業省の電力・ガス取引監視等委員会(以下、電取委)に対する情報提供として、大手電力会社が電力の販売先としての新電力会社に価格面で差別的な扱いをしてきたことや、卸電力取引所への供給量を絞り込むことで市場価格を引き上げ、新電力の競争力低下を企図していた者がいたことなどを指摘している。このような情報提供という形で警告を発するやり方は異例だ。

――他社顧客情報の不正閲覧問題では、関電など5社に業務改善命令を出すよう、電取委が経産相に3月31日付で勧告しました。

不正閲覧は発送電分離の精神をないがしろにするものだ。関電では多くの社員が違法だと認識しながら閲覧していたことが明らかになっている。営業活動にも活用していたという。とんでもないことだ。

この問題については罰則強化や電取委の体制強化、経産省から独立して公取委などと同様の国家行政組織法に基づく独立性の高い3条委員会に格上げするといった方策も考えるべきだ。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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