私たちが当たり前に「コーヒーを飲めなくなる日」 種の脆弱性と、環境の変化がもたらすリスク
ところでそもそも、アラビカ種はなぜ病気に弱いのか。それは遺伝的な脆弱性を持っているからです。
コーヒーノキの種は約130あると言いましたが、その中でもアラビカ種はちょっと特殊なのです。というのも、ほかの種はみな染色体数が22本であるのに対し、アラビカ種は44本。
倍の数です。なぜでしょうか? 近年の遺伝子分析によると、アラビカ種はユーゲニオイデスとロブスタが異種交配をした際に、染色体数が倍になった「異質四倍体」という植物であるようです。
強い種をつくることは簡単ではなく…
ところで、染色体のことを書いていて、ある珍事を思い出しました。話は逸れますが、DNA解析の珍事です。イエメンのQima Coffeeのファレスシバニ氏がワールド・コーヒー・リサーチ(WCS)とともにDNA解析を行った結果、ランダムに取り寄せたゲイシャ種のうち6割がゲイシャ種の品質特性を兼ね備えたロットではなかった、という結果が出たのです……。
話をアラビカ種に戻しましょう。
もうひとつの大きな特徴が、自家受粉が可能ということです。
基本的にコーヒーノキは自家受粉できません。自分だけでは実をつけることができず、ほかの木の花粉が必要なわけです。ところが、アラビカ種は自家受粉ができてしまう。なので、周囲にほかの木がなくても、確実に子孫を残すことができるというメリットがあります。世界中にコーヒー栽培が広まったのは、この特徴のおかげでしょう。たったひとつの苗を持ち込めば、コーヒー豆を作ることが可能だったのです。
一方、自家受粉を繰り返すことで遺伝的多様性が失われやすく、環境の変化に弱い(理屈上はどんどん弱くなる)というデメリットがあります。サビ病などの病害でも一気に被害を受けるということが起こるのです。
こういった特徴があるので、アラビカ種とほかの種と交配させてもう少し強い種を作ろうという動きはあるのですが、染色体数がほかの種と異なるアラビカ種を掛け合わせるのは簡単ではありません。今後に期待したいところです。
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