「私か母のどちらかが死ななければ」母娘の呪縛 「本当に御免なさい」何度も踏みとどまった末に

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あかりは母から激しい罵倒や暴力を受けながら医学部を受験することを強要され、9年もの浪人生活を送った。その末に「看護で手を打ってやる」と母が妥協し、地元の医大の医学部看護学科に合格。あかりは大学進学後、「できるだけ母に寄り添おう」という思いから休日を一緒に過ごすよう努め、母娘で旅行をすることもあった。

私は子ども時代に母がそうしてくれたように、あれこれと旅行を計画した。母は有名テーマパークが好きだったので、TDR(東京ディズニーリゾート)やUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)に行き、京都や東京、沖縄にも出かけた。

長年、互いに憎み、死を願い続けた険悪な関係だったけれど、やっと普通の母娘になって、楽しく笑い合えるように。何百枚も私は2人の笑顔の写真を撮った。母が喜んでくれるのが、嬉しかった。

笑い合える時もあった

家庭という密室で寝食を共にする親子だからこそ、自分を傷つける相手と笑い合う瞬間がある。残酷な行為をされても「悪いことばかりじゃない」という考えが頭をよぎる。簡単には離れられない関係性が、親子の問題をより根深くするのだろうか。

「彼女の30年間の人生の中で、つねに100%憎んでいた訳ではなく、時期によって割合が変化していたのだと思います。受験や進路が関わってくると、お母さんの存在感が圧倒的に増し、価値観の相違が表れてしまうのでお母さんへの憎しみが100%に近い状態になっていたと思います。

しかし大学生1、2年生の頃はお母さんの価値観を押し付けることができない凪のような時期だったので仲良くやれていた。そのことは完全に憎み切れていなかったことを象徴していると思います。

親子関係、特に母と娘は絶縁しようと思っても他人になれない関係性です。そのために2人の関係性ではなく、命そのものを消すことしか解決する手段がなかった。それが母娘という関係性の逃れられなさであり、呪縛といえるところだと思います」

齊藤彩 母と言う呪縛 娘という牢獄
齊藤彩(1995年東京生まれ。2018年3月北海道大学理学部地球惑星科学科卒業後、共同通信社入社。新潟支局を経て、大阪支社編集局社会部で司法担当記者。2021年末退職。本書がはじめての著作となる。撮影:ヒダキトモコ)
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