アメリカの「銀行破綻」で試される当局の完全鎮火 「SVBショック」が示した利上げのリスク顕在化

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1980年からの4年間に倒産したS&Lは138行に及んだとされ、1990年代前半まで続いた同危機では、最終的にアメリカ史上最大(当時)の金融破綻処理へとつながった。

SVBのように、現在の金利情勢に合わない極端なポートフォリオを組んでいる金融機関はほかにもあるのか。それはまだ判然としない。信用不安の拡散という意味では、シグネチャーバンクのような暗号資産関連の金融機関も注意が必要だ。

ベンチャーキャピタルファンドからの預金に偏重していたSVBは、大口の預金引き出しが殺到しやすく、今回は「特別な例だ」との指摘もある。金融市場では、SVB破綻を受け、世界的に銀行株が下落し、リスクオフから国債が買われ、長期金利が低下した。第2、第3のSVBが出てこないか、しばらくは市場の疑心暗鬼や警戒感は続くだろう。

早期にシステミックリスクを抑えられるか

2023年1月からインフレ率が再加速し、再びタカ派色を強めていたFRBにとっては、SVBの経営破綻を受けて新たな難題を抱えることとなった。

パウエルFRB議長は3月7日の議会証言で「政策金利を従来想定より高い水準に引き上げる公算が大きく、必要があれば利上げペースを加速させる用意がある」と述べた。そのため、3月21〜22日に開催されるFOMC(連邦公開市場委員会)では、前回の0.25%から0.5%へ利上げ幅を拡大させるのではないかとの見方も出ていた。

今回の破綻劇は、急速な利上げは金融市場のシステミックリスクを顕在化させる可能性があることを改めて示したが、今後の金融政策にどんな影響を与えるのか。

FRBとしては、財務省、FDICとのタッグで緊急対応策を躊躇することなく連打し、早期にシステミックリスクを抑え込むことが最優先だろう。そうすれば、金融政策への影響は極力避けられ、これまでどおり高インフレ退治に集中することができる。

一方で、システミックリスクを恐れるあまり、金融政策で弱気の姿勢を示し、結果として高インフレを長期化させることは最悪のシナリオと言えるだろう。高インフレが再び過熱すれば、その後再び強化に転じざるをえない金融引き締めにより、将来の景気後退や金融市場の混乱はより深刻なものとなってしまうからだ。

ただ、蓋然性は高くないものの、もう1つのシナリオも残されている。それは、SVBのような金融機関の信用不安や破綻がくすぶり続け、政府・FRBが金融引き締めと破綻処理を同時に進めるというものだ。仮にそうなれば、1980年代の状況が再現されることを意味する。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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