「脱サラしてプロ棋士に」"非エリート"が叶えた夢 小山怜央「震災を乗り越え、20年挑戦し続けた」
自ら崖っぷちに身をおいての再挑戦だった。編入試験の資格を得るには、極めて高いハードルがある。まずアマの全国大会で優勝、もしくはそれに準ずる成績を上げて、やっとプロの公式戦出場の一枠を獲得。
それからプロを相手に通算10勝、その間の勝率が6割5分以上の成績を残して、初めて編入試験が受けられる。2014年にこの規定が設けられてから、それまでにクリアしたアマチュアは4人しかいない(受験したのは内2人)。
本試験では、若手棋士5人を相手に3勝以上の成績が求められる。
会社を辞めて、仕事にとられていた時間を将棋の勉強に当てることができるようになった。しかし、制約のない1日を自分で管理する難しさを感じる。
「自分はそんなに意志が強いほうではないんです。モチベーションを上げるために、今ここでやらなかったらどうなってしまうのかをひたすら考えて自分を追い込みました。
三段リーグ編入試験のときは、自分との戦いで失敗した部分があり、はたして最善を尽くしたのかという思いがありました」
集中力を長く持続できるタイプもいるが、自分は休憩を挟んで1日7~8時間の勉強が限界だと悟った。退職後、怜央が仕事を辞めてプロを目指すことが読売新聞に載ったことで、思ってもみなかった人たちから連絡が届く。「頑張れよ」という声が、モチベーションにつながった。
アマの全国大会の出場欄には、プロフィールに職業を記載する。怜央は正直に〈無職〉と書いた。
「これはつらかったですね。学生時代も含めて、初めて肩書のない自分を経験しました」
将棋で生計を立てたいとは違う、芯のところにある欲求
会社を辞めてから5カ月が過ぎ、翌月には失業保険からの手当も切れる。編入試験資格を得るまでに、あとどれくらいかかるかわからなかった。勝ち進んでいたプロの竜王戦で負けてしまったこと、コロナ禍で中止になったアマ棋戦があったことが響いた。
(何かアルバイトをしなければダメかな)
貯金だけではさすがに心許なくなった。それに試験へのエントリーには50万円が必要だった。
そんな折にアマ大会の会場で、元奨励会三段の甲斐日向と会った。甲斐は怜央が仕事を辞めて、編入試験を目指すことを聞いていた。
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