ステージ3の大腸癌、42歳男性が得た「大切なもの」 再発や死の不安を軽くしたのは「仲間との走り」

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ごくごくゆっくりとした20分程度のジョギングでした。気持ちのいい空気、一緒に走る人との何気ない会話、筋肉が躍動し心臓が鼓動する感覚、すべてがこれまで味わったことのない感動でした。何十年も走り続けてきた私でさえ、生まれて初めての感覚だったのです。

死と向き合う毎日のなか、走ることで生きている実感と幸せを感じることができた瞬間でした。

ベッドの上で病気のことばかり考え、卑屈になっていた生活がその日から一変しました。がんの再発に怯えて病気のことをネガティブに考えるだけの生活を送るのではなく、何事にも積極的に動こうという決意に変わりました。

ランニングによって私は救われた

ランニング習慣があっても、がんから逃れることはできませんでしたが、ランニングによって私は救われたのです。

ところで、私たちの人生はどうやって終わるのでしょうか?

日本とアメリカの死亡原因上位は以下の表のようになっています。

日本とアメリカの死因3位

日本は老衰で人生を終える人が増えたことが話題になっていますが、がんは相変わらずの1位です。

一方、アメリカ人の死亡原因1位は心疾患です。心疾患問題はアメリカ人の高カロリー&コレステロールな食生活が原因であるといわれていますが、有酸素運動による予防も効果的だといわれています。

実は、毎年12月に開催され、2022年に50周年を迎えた有名な「ホノルルマラソン」は、心疾患問題の改善が目的で始まりました。1973年、心臓病の専門医であるジャック・スキャッフさんが「心臓病のリハビリと予防のためには、LSD(長距離をゆっくり走る)、フルマラソンを走るのが良い」と提唱し、そのことがレース開催につながったのです。

ホノルルマラソンでは、今も完走制限時間や関門は設けられていません。

日本人ランナーにとっては「初心者でも、トレーニング不足でも完走できるゆるいマラソン大会」という位置づけになっていますが、現地のアメリカ人にとっては、心疾患の予防とリハビリが目的なので、完走制限時間や関門がないのは当然なのです。

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ランニングは健康を維持し、病気のリスクを下げることができると思います。しかし、私の経験のようにランニングをやってもがんにならない保証はありません。ランニングなどの運動を生活習慣のなかに取り入れて、長くなりつつはあるものの、限りある人生をどうやって病気と付き合いながら過ごすか。

与えられた運命や宿命を変えることはできませんが、考え方と行動を変えることで、人生をもっと豊かに輝かせることはできる。私はそう信じています。

金 哲彦 プロランニングコーチ

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きん てつひこ / Tetsuhiko Kin

早稲田大学在学中4年連続で箱根駅伝5区(山登り)を走る。卒業後、リクルートランニングクラブの選手を経て、後にコーチ・監督に就任。有森裕子、鈴木博美、志水見千子、高橋尚子らオリンピック選手を指導。現在は市民ランナーからオリンピックランナーまで幅広く指導する、NHK BS1『ランスマ倶楽部』でお馴染みの プロ・ランニングコーチ。テレビやラジオの駅伝・マラソン中継の解説者としても活躍、東京オリンピックや世界陸上オレゴン大会でも陸上競技の解説を担当した。ランニングに関する著書は多数。

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