確かに年に一度受ける健康診断で、「便潜血陽性」の診断結果が出ていました。しかし、とくに痛みや違和感などの自覚症状がなかったので、そのまま放置していたのです。
ランニング習慣があったので、体力も気力もすべてにおいて運動をしていない人より健康だと絶対的な自信を持っていたのです。この思い込みと過信こそが「未病」の怖さだと感じました。
がんになりやすい人は、喫煙、飲酒、運動不足、肥満、野菜不足、ストレスなどの生活習慣があるといわれています。私に当てはまるものは飲酒とストレスの2つです。
知らず知らずのうちにストレスが
30代後半、長年勤めていた会社を退職し、フリーランスになりました。やりがいのある仕事でしたが、慣れない仕事を休みなく続け、知らず知らずのうちにストレスがたまっていました。
日々のストレスで夜寝付けないのと、眠りの浅さが嫌で、毎日酔っ払うまでお酒を飲み、歯も磨かずにそのまま寝落ちしていました。いま振り返ると本当に愚かな生活習慣だったと反省しています。
ランニングという健康的な生活習慣の軸があったにもかかわらず、数年間にわたる身体をむしばむ別の生活習慣が、結果的に大腸がんを作ってしまったのだと思います。
大腸がんが見つかってから、すぐに開腹手術を受けました。42歳の夏のことです。集中治療室から一般病棟に移り、点滴で栄養をとりながら約2週間の入院生活。そして、3週間ぶりに口からものを食べられるまで回復し退院できました。次は自宅療養生活の始まりです。
在宅になってからの生活はというと、外出は軽い散歩程度だけで1日のほとんどをベッドの上で過ごしました。毎日のように走り、週末にはレースにチャレンジしていたランニング三昧の生活から考えると、まったく真逆の毎日です。
大腸がんの手術は成功しました。しかし、病理検査でリンパ節への転移が見つかっていました。退院後一番の心配は、大腸がんの再発と他臓器への転移です。「術後は2年が1つの山」と主治医から伝えられていました。再発も転移も、もしそうなれば次は命と向き合うことになります。
ベッドでは病気に関する本を読みあさりました。また、パソコンを開くたびにインターネットでがんに関する検索ばかりしていました。
「5年生存率」「10年生存率」など、がん患者が最も気にするデータをネットで何度も調べ、同じ病気で苦しむ人のブログを読んではため息をついていました。
そして、秋を迎えました。ランニングには最も気持ちのいい季節です。
手術前から3カ月以上、走ることはおろか歩くことさえあまりできていませんでした。筋力はすっかり衰え、青白い顔をし、どこから見ても病人の様相だったと思います。心の中からもがんの再発と死への恐怖が抜けることはありませんでした。
そんなある日、私の病気を知らないランニング仲間から「久しぶりに一緒に走りませんか?」と誘われました。がんの闘病を隠していたので断るのも変に心配されると思い、「少しならご一緒できます」と返答しました。そして、誘われた人と公園のなかを約4カ月ぶりにジョギングしました。
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