クルーグマン教授、「賃上げは難しくない」

マックの賃上げは労使関係の変化をもたらす

ところが妙なことに、労働経済学について知れば知るほどそんな宿命論には賛成しづらくなる。

ひとつには、労働市場における要因として国際競争が過大視されている。なるほど製造業は以前よりずっと多くの競争にさらされるようになった。だが米国の就労者の大半は、貿易とは無縁のサービス業界で働いている。また「技能格差」の問題も盛んに指摘されるが、ハイテク化が賃金を押し下げるといった明確な証拠は実はあまりない。

さらにもっと重要な点として、労働市場は大豆や豚肉の市場のようではないということがある。なにしろ労働者は人間だから、雇用する者と雇用される者の関係は単なる需要と供給の関係よりも込み入っている。そして複雑な間柄だからこそ、賃金の決定には案外融通が利くといえる。私たちが望むなら大幅な賃上げは可能なはずなのだ。

最低賃金と雇用数の関係

では労働市場はその他の市場とどう違うのだろうか。まずは最低賃金が影響を及ぼす。それを示す証拠もたくさんある。

米国内でひとつの州が最低賃金を引き上げ、しかし近隣各州では引き上げていないというとき、(ある条件の影響を明らかにするための)対照実験をしたのと同じことになる。その結果を見ると、必ず意外な影響が生じている。というのも、最低賃金の引き上げが雇用の減少を招くようなことはほとんどない。よりよい仕事にこそなれ、最低賃金を高くしたからといって雇用が減るわけではなさそうだ。

なぜそうなのか。ひとつの答えとして、労働者は商品ではないという点がある。たとえば大豆なら、自分がいくらで買われたかなどということを気にしない。だが人間はまともな給与をもらえば頑張って働くという傾向がある。そして職場を去って代替要員が必要になるようなことにはなりにくい。もしも雇う側がぎりぎり最低限の賃金で済まそうとしたらそうは行かないだろう。

ゆえに最低賃金の引き上げは、人件費を上昇させる一方で、その影響を相殺するような恩恵をもたらす。雇用に対する悪影響が抑えられ、コスト削減にもつながる。

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