クルーグマン教授、「賃上げは難しくない」 マックの賃上げは労使関係の変化をもたらす

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同じような要因を通じて、労働市場にまつわるまた別の謎を解くことができる。同業と思える企業間で賃金が全然違うという問題についてだ。

典型的な例として、小売大手のウォルマート(低賃金で従業員の士気は低く、離職率が高い)とコストコ(賃金も手当ても高い分、従業員の生産性と帰属意識が高い)を考えてみよう。

確かに両社は異なる市場を相手にしている。コストコは扱う商品の水準が高めで、より裕福な顧客を抱えている。だが比較すればわかるように、雇用主にとって賃金を高くするというコストは思ったよりずっと低いようだ。

だからあまねく賃上げを実施することはさほど難しくないのではないかと言えるのだ。想定してみようではないか。最低賃金を引き上げることによって労働者に交渉力を与え、組合を組織しやすいようにすると同時に、肝心なこととして、低インフレ環境で景気回復を妨げる理由など見つけないようにして完全雇用を目指す。

労働市場に関して、今現在わかっているかぎり、その成果は驚くほど大きくなる可能性がある。米企業の多くに対し、長らく支配的だった低賃金戦略からの転換を図るよう説得するためには、程よく促せばいいだけのことかもしれないからだ。

賃金宿命論は言いがかり

歴史上の前例もある。今や世の中に取り残されそうな中間層だが、決してひとりでに出現したわけではない。かつて第2次世界大戦中に賃金の「大圧縮」によって(所得格差の縮小を経て)生み出されたような存在なのだ。その効果は1世代以上の期間にわたって続いた。

あの快挙を繰り返せないものだろうか。ウォルマートとマクドナルドの賃上げは労働市場の逼迫と活動家からの圧力を通じて実現した。両社の例を見れば、もっとずっと大きな規模で生じ得る効果もうかがえる。賃金宿命論などは言いがかりにすぎない。米国人の賃金は、私たちが上げたいと思えば上げられる。

(執筆:Paul Krugmanプリンストン大学教授、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授、翻訳:石川眞弓)

(c) 2015 New York Times News Service

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