フグ獲れない大阪で「フグ料理」が名物になった訳 商人たちの創意工夫で「安くて・うまい」を提供

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このため、遠洋漁業の冷凍マグロを変色させないためにはどうしたらいいのかという研究が進みました。その結果、マイナス35度以下の低温まで冷凍温度を下げると、解凍してもマグロが変色しないことがわかったのです(「食品工業と冷凍技術の利用」砂川満男 河村治祐『化学工学 31巻8号』)。

マグロの遠洋漁業のために、極めて低い温度の冷凍施設が漁港などに整備されていきました。この冷凍インフラを利用したのが、大阪のフグ問屋だったのです。

「タイムマシン」でフグを安く提供

外食店に冷房が普及していない昔は、春から夏にかけて気温が高くなると鍋物の売り上げが落ちました。てっちりが主力商品であったフグ料理も春夏には手仕舞いとなり、その結果シーズンオフのフグは安値で取引されていたのです。

“大阪のフグ問屋がシーズンオフの安価なのを、内臓を捨てて身だけを冷凍することをはじめた。(中略)むかし、養成ウナギで鰻丼を安価に売りひろめたのも大阪であり、フグの場合も大阪であった。大阪人の商才というものの端的なあらわれであろう”(大久保恒次『うまいもの歳時記』)

極低温の冷凍庫ならば、フグを劣化させることなく何カ月間も冷凍保存することができます。冷凍庫をタイムマシンとして利用することで、冷凍保存コストを差し引いても格安でフグが提供できるようになったのです。

鉄道による冷蔵輸送や極低温の冷凍インフラ。その時々の最新技術を応用した大阪商人の創意工夫によって、安くてうまいフグ料理が大阪名物となったのです。

近代食文化研究会 食文化史研究家

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きんだいしょくぶんかけんきゅうかい / Kindai Shokubunka Kenkyukai

食文化史研究家。2018年に『お好み焼きの戦前史』を出版。以降、一年に一冊のペースで『牛丼の戦前史』『焼鳥の戦前史』『串かつの戦前史』『なぜアジはフライでとんかつはカツか?』等を出版。膨大な収集資料を用いて近代の食文化史を解き明かしている。(Amazon著者ページTwitterアカウントnote

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