賃上げで万事OKとはいかない共働き社会の内実 タワマン買うパワーカップルと将来不安が併存

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「実質賃金が低迷しているため消費が弱い」という指摘は少なくない。筆者もこのような表現を使うことは多いのだが、本当に長期的にこの傾向が日本経済でみられているかは微妙なところである。

例えば、毎月勤労統計によると、2022年(速報)の現金給与総額(名目賃金)は前年比プラス2.1%と31年ぶりの伸び率となったものの、消費者物価指数で割った実質賃金は前年比マイナス0.9%であった。

しかし、実は世帯ベースの収入を見ると、名目値・実質値ともに増加傾向にある。

2022年の名目世帯収入は前年比プラス3.5%、実質世帯収入は前年比プラス0.4%だった。過去10年で前年比伸び率の平均を比較すると、「1人当たり賃金」は名目0.4%、実質は0.6%だったのに対して、「世帯収入」は名目2.2%、実質1.2%である。世帯全体で使えるお金は増えている(少なくとも実質的には減っていない)。

 

世帯収入は増えても、ゆとりが減った背景とは

その一方で、日銀の「生活意識に関するアンケート調査」(2022年12月調査)では、暮らし向きに「ゆとりがなくなってきた」との回答が増加し、その理由として物価上昇や収入減少を挙げる回答者が多かった。

これは、調査結果通りに収入源に解を求めるよりも、実際には世帯収入は増加しているのに「ゆとり」がなくなっている背景を考えたほうが本質的に価値のある議論といえるだろう。

なお、この試算では「2人以上の世帯」(勤労者世帯。以下同)のデータを用いた。単身世帯が増加しているが、「単身世帯」と「2人以上の世帯」のそれぞれの「世帯収入」の伸び率を各年の各世帯数(一部筆者推計値)で加重平均し、「総世帯」の「世帯収入」を計算すると、過去10年の前年比平均で名目2.0%、実質1.0%という結果となった。

単身世帯が増加している影響は限定的である。

「1人当たり賃金」と「世帯収入」が異なる動きをする背景には、共働き世帯の増加など、労働参加率の上昇がある。これまで働いていなかった高齢者や専業主婦が労働市場に参加する過程では、1人当たりの生産性やそれに連動する「1人当たり賃金」が低下することはやむをえない面もあるだろう。

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