むろん、世帯の可処分所得増加の背景には、女性の社会進出にともなう所得の増加という構造変化も大きい。しかし、新たな「基礎的支出」の増加に対応するために労働所得を増やしている面もあるだろう。「生活防衛のために働く」という動機の存在を無視することはできない。
この点については、「夫の収入が多くなると妻の就業率が低下する」という「ダグラス・有沢の法則」が参考になる。
労働力調査のデータを用いて直近(2021年平均)の状況を確認すると、夫の年収が400万円以上の世帯でこの法則が成立している。特に、妻の年齢が「25~54歳」という働き盛り(プライムエイジワーカー)の世帯に限定すると、夫の年収が400万円未満の世帯も含めて夫の収入が低いほど妻の就業率が高い。「ダグラス・有沢の法則」は現在でも成立している。
将来がわからないから、もっと貯めたい
世帯収入が増えているのにもかかわらず、家計が「ゆとり」を感じることができない背景には、新たな「基礎的支出」が増えていることや、時間的な「ゆとり」の問題に加えて、原因は「ストック」に対する不安がある可能性がある。
家計は将来の所得の見通しによって現在の消費(および貯蓄)を決定するという「恒常所得仮説」を踏まえると、家計は現在の所得が増えたとしても、将来の所得見込みが不足しそうだと判断すれば現在の貯蓄を積み上げることが予想される。
これは、所得に対する不透明感だけではなく、先行きの支出に対する不透明感の高まりにも依存する。
金融広報中央委員会(知るぽると)が毎年実施する「家計の金融行動に関する世論調査」(2人以上世帯)によると、金融資産残高の目標(平均)は増加傾向にあり、現在保有する金融資産保有額(平均)との差が拡大している。家計の「ストック」の不足感は強まり続けている。
繰り返しになるが、企業の「賃上げ」は日本経済にとってプラスの面が多いと、筆者は考えている。政府による財政政策と同様に、少なくとも短期的には経済を押し上げることにはなるだろう。
しかし、実質ベースで経済を拡大していくような「良い循環」につながる保証はない。「賃上げ」ですべて解決するという雰囲気とは距離をとったほうが賢明だろう。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら