賃上げで万事OKとはいかない共働き社会の内実 タワマン買うパワーカップルと将来不安が併存

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東京・晴海のタワーマンション
夫婦とも高収入のパワーカップルはタワーマンションも買える(写真・Bloomberg)

日本経済にとって記録的なインフレ高進となる中、賃上げに注目が集まっている。

1月30日には、令和臨調が政府・日銀の共同声明に「生産性向上、賃金上昇、安定的な物価上昇が起こる持続的な経済成長が実現するための環境を作る」という文言を新たに入れるよう提言した。

賃上げに期待される影響は主に2つある。

1つ目は、賃金水準と結びつきの強いサービス価格の継続的な上昇によって、安定的なインフレを実現することである。プラス圏のインフレ率が必ずしも必要ではないという見方もあるが、デフレ・スパイラルは望ましくないという見方が定着する中、小幅プラスのインフレ状況に反対する声はほとんどないだろう。

2つ目は、家計の購買力強化による消費の拡大(需要の増加)である。人口減少社会では、1人当たりの需要を増やしていかないと、経済はジリ貧に陥ってしまう。

これらの日本経済の課題の「ど真ん中」といえる2つの課題について、1つ目のインフレの定着は、「十分」な賃上げが実現できれば解決可能な面があるだろう。物価安定を責務とする日銀が、2%物価目標に対して不十分とみられる賃金の上昇を望むことはもっともである。

しかし、2つ目の消費拡大はかなり微妙である。

賃金が”増えた感”だけなら消費増は望み薄

例えば、賃金上昇とインフレが同時に生じるだけでは、実質ベースの成長は生じない。令和臨調が賃金上昇と物価上昇だけでなく、「生産性向上」も含めて提言した背景にはこの議論があると考えられる。人々は名目値で金融行動を判断しやすいという「貨幣錯覚」の議論があり、「賃金が増えた」という感覚が実質ベースの消費増につながる可能性はゼロではない。

しかし一方で、「従業員の立場からしても、(中略)業績があまり強くない中で、強い賃上げ率を実現、もしそういうことが起きれば、きっと業績に悪影響が出るのではないかなという心配が当然ながら従業員には出てきますので、これは結局、賃上げがあった中でも貯蓄に回ってしまう」(中村豊明日銀審議委員の2022年12月7日の記者会見)という見方もある。

これらを勘案すると、賃金上昇は日本経済にとってプラスの面が多いとみられるが、「賃上げですべて解決する」という雰囲気には注意が必要である。

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