オウム後継「13億円資産隠し」疑惑が看過できぬ訳 被害者は泣き寝入り?賠償は滞った状態が続く

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ここへきて12億6000万円が消えたのは、アレフがそれまで報告していた中には、信者名義や関連会社の法人名義であった資産も含まれていて、これはあくまで“サービス”で報告したものであって、本来は任意団体のアレフの資産にあたらない、と主張したことによる。

実は、アレフは名称を変える以前から会社を持っていたり、アレフになってから立ち上げたり、あるいは買い取ったりして法人をいくつも抱えていた。代表者が信者、構成員であっても、そこにある資産、あるいは個人名義の預貯金はアレフに関係ないというのだ。アレフそのものは法人格を持たない、町内会や労働組合と同じ立場にあるとする。「明らかな資産隠し、差し押さえ逃れですよね」(オウム問題に詳しい弁護士)。

被害者はずっと泣き寝入り

こうして振り返ると、オウム真理教の後継団体の現状は、事件を反省することなく、あまりに悪質といわざるをえない。殺人を肯定する麻原の教えを継承していればなおさらだ。公安調査庁が再度、再発防止処分を請求したところで、これが認められたとしても、効果なく終わる可能性も高い。

これでは被害者はずっと泣き寝入りだ。宗教法人に解散命令が出て、法人格を失い、清算されたとしても、あとに残った任意団体はやりたい放題ができる証しでもある。

昨年7月の安倍晋三元首相襲撃事件をきっかけに、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の問題が取り沙汰されている。文部科学省は宗教法人法に基づく「質問権」を行使し、これまでに旧統一教会から3回の回答を得ている。4回目の質問権の行使も視野に、解散請求を行うべきか検討している。

しかし、旧統一教会が法人格を失っても、これまでの活動が制限されるわけではない。旧統一教会には、関連組織、関連企業がいくつもある。被害者救済は進むのか。あるいは被害を食い止めることはできるのか。

国や自治体が認証した宗教法人の犯罪や不法行為については、もっと厳しい措置が必要なのではないか。オウム真理教は無差別殺人を犯したテロ組織でもある。そのオウム真理教のために作られた団体規制法も空回りする。繰り返すが、このままでは被害者がいつまでたっても泣き寝入りだ。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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