「偏差値30台」から医師を目指した意外なきっかけ アジアで医療活動する吉岡秀人医師の「原点」

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子どもの頃の話をちょっとすると、吹田市のJRの駅、昔は日本国有鉄道だったんで国鉄の駅ですけど、降りると暗い地下道に出たんですよ。

その地下道、昔のことだから、もうじめじめして薄暗くて、豆球みたいなのが灯ってるだけですよ。雨が降ると流れ込んできて、水びたしになって、くるぶしぐらいまで水につかるような。そんな地下道を改札出て50メートルぐらい歩くと、外に出られたんですね。

この地下道の両脇に、何人もの物乞いの人が座ってたんです。ござ敷いて、缶々を置いてですよ。この人たちがみんな軍服着てた。傷痍軍人の人たちだったんです。で、手足がなかった。そして夜、暗くなると、杖をカッタンカッタンついて、みんな帰っていくんですね。

僕が小さな子どもだった当時、体にそういう障害がある人って、あんまり人前に出てこなかったんですよ。道もよくないし、車椅子もまだ十分いいのがそんなにたくさんあるわけじゃないでしょ。それで、自分の中ではすごく印象深く残ってるんだと思うんです。

その同じ頃ですよ。同じ町で、日本万国博覧会が開かれてたんです。世界中からすごい数の人が来て、日本中からも人が集まって、お祭り騒ぎやっている。その同じ町の駅の前で、25年前に終わった戦争を引きずって生きている人たちがまだいた。これが僕が生きてきた時代背景なんですよ。

わずかな時空のずれが運命を翻弄する

そんな中、ある時ですね、中学生ぐらいだったと思うんですけど、気づいたことがありまして。

「人間っていうのは、わずかな時間と空間のずれで、これほど運命が変わるんだ」と。わずかな時空のずれが、人の運命をこれほど翻弄するんだって思ったんですね。そして「なんと自分は幸運の星の下に生まれてきたんだろう」と。

20年前に生まれてたら毎日、爆撃の危険にさらされてたんですよ。わずか飛行機で1〜2時間の距離にある国で生まれてたら、軍事政権であったり、やはり飢餓であったり、いろんなことに巻き込まれてたと。

たった1〜2時間の距離、20年という時間の差が、僕の今を保証してくれていたんですね。それは僕の力じゃない。わずかな、本当に偶然だったかもしれないですね。

そのことに、はたと気がついた時、なんかもったいないなと思ったんです。こんないい時代に、こんな安全な場所に生まれてきて、こんな生き方してたらもったいないと思い始めたんですね。だけどまあ、人間だから、そう思ってもまたサボるんですよね。

皆さんの中にも、なんか目標がないとか、これからどうやっていったらいいかわからないと思ってる人たち、たくさんいるんじゃないですか。僕も同じですね。もったいないと思っても、何も変わらないんです。で、自分の中にどんな能力が眠っているとか、何ができるとか、まったくわからない。ただ毎日をそれとなく生きていただけだったんですね。

高校生の時は全然勉強してなかったんです。ちょっと言うのが恥ずかしいぐらいなんですけど。高校では1年に1回だけ進路指導があるんですよ。親と2人で面談行くんですけど、担任の教師が、僕は就職すると思ってたんですね。

それで、受験の資料を用意してなかったんです。なので、僕が大学受けるよって言ったら、1週間後に再度面談になったっていうぐらいのレベル。で、めでたく浪人。

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