「医師の働き方改革」で手術や救急に支障が及ぶ訳 来年春から「勤務医の残業時間に上限」の懸念点
テレビでは医療や病院を舞台にしたドラマが増えている。そういったドラマでよく目にするのが、勤務医が長時間労働をしている場面だろう。
実は、この長時間労働は勤務医の大きな負担になっていて、ドラマで描かれている以上に現実は厳しい。過労で体調を崩したり、メンタルヘルスで問題を生じたりするなどしており、労働環境の改善が喫緊の課題となっている。
そうしたなか、長時間労働が常態化している勤務医の働き方が、来年から大きく変わる。「医師の働き方改革」といわれるもので、2024年4月から勤務医の時間外労働の上限が原則、年960時間となる。960時間というのは、ざっくりと計算すると1日4時間ほどの残業になる。例外として、救急など緊急性の高い医療を提供する病院の医師や、短期間で集中的に症例経験を積む必要がある若手医師は、上限を原則の約2倍となる年1860時間とする。
過酷な長時間労働を強いられている医師の働き方が見直されるのは悪くないが、手放しで喜んでいいかは微妙だ。なぜなら、患者側にしてみると、これまでのように「受診したいと思ったときに自由に病院を選ぶ」ことが今後できにくくなるなど、日々の受診に大きな影響がおよぶ可能性が指摘されているからだ。
産婦人科医の4人に1人が時間外労働
今回の働き方改革の対象となるのは、勤務医だ。そこでまず、今の勤務医が実際にどの程度の時間外労働をしているかみていこう。
厚生労働省が2019年に実施した勤務実態調査によると、勤務医の約1割が、年1860時間を超える時間外労働をしていた。3000時間を超えるケースもあり、自宅に帰ることもなく、ほとんど病院に住み込み状態となっている医師が少なからずいる実状が明らかになった。
上記の調査とほぼ同時期に、まめクリニックグループ創業者で医師の石川雅俊氏(筑波大学ヘルスサービス開発研究センター客員教員)が、「全国の産婦人科医師の勤務実態等を踏まえた医師の働き方改革の推進に向けたアンケート調査」を実施した。その結果、時間外労働が年960時間以上の医師が65.5%、年1920時間以上の医師が27.1%いた。
要するに、24時間対応や救急対応が求められる産婦人科では医師が不足しているため、それだけの長時間働かなければ、産婦人科医療は成り立たないということだ。現場は“医師の自己犠牲的な労働に支えられている”といってもいいだろう。
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