「医師の働き方改革」で手術や救急に支障が及ぶ訳 来年春から「勤務医の残業時間に上限」の懸念点
具体的な取り組みとして、同病院では長時間労働の多い診療科を中心に、労働時間として認める「自己研鑽」の判断基準を明確にしようとしている。医師がプロとして患者を診ていくために自己研鑽は必須だが、すべてを青天井で労働時間と認めていたら、働き改革の実現に向けて労働時間の管理ができない。
また同病院では、医師免許がなくてもできる業務を看護師や医療クラークなどにやってもらう医師のタスクシフト(業務の移管)だけでなく、1人の医師による主治医制から複数(チーム)主治医制などへの移行を円滑にするために医師間のタスクシェア(業務の共同実施)も推進している。
勤務医が不安視する収入減
ところで、医師の働き方改革は、医師の労働時間だけでなく、医師のお財布事情にも変化を来たす可能性がある。
渡辺氏は病院に勤務している社会保険労務士なので、全国の病院からの依頼で医師向けセミナーの講師を務めている。質疑応答で勤務医から出てくる質問の多くが、「今の収入が減ってしまうのか」というものだ。
そうした懸念があるのは当然だろう。これまで条件のいいバイトなどで勤務先の給料を補填してきた医師にとって、バイトができないということは収入減に直結する。また、30代、40代の勤務医だと、ちょうど子どもが高校や大学に入る時期だ。わが子の教育資金を稼ぐために、我が身を削って夜間や休日にバイトを入れているケースもあると聞く。
これに対して渡辺氏は、「収入についてはケースバイケースで、一概に収入が減ると答えることはできない。しかし、勤務する病院の形態と、派遣元と派遣先との間の労働時間のバランスによっては、大きく収入が減る勤務医がでてくることもある」と話す。
ファイナンシャルプランナーの内藤眞弓氏は、働き方改革は“公私の境もなく医師の使命感で患者対応などをしてきた”勤務医が正当に評価され、適切な賃金が支払われるきっかけにもなる可能性があるとみている。
医師としての労働が明確になることで、いわゆるサービス残業的な労働が減り、患者対応にかかった時間が労働時間に正しくカウントされる機会になるかもしれないというのだ。
何より、医師は望めば開業ができ、よほどのことがない限り、一生涯医師であり続けられる特殊な職種である。働き方改革の影響はどう私たち国民に及ぶのか、しっかり見ていく必要がある。開始時期は来年4月に迫っているのだ。
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