「医師の働き方改革」で手術や救急に支障が及ぶ訳 来年春から「勤務医の残業時間に上限」の懸念点
石川氏は言う。「働き方改革で懸念されるのは、現在の医療提供体制を維持できるかどうか。例えば1人の医師が院長として運営している産婦人科クリニックで、2人目か3人目の医師を大学病院からの派遣で充当している場合、その医師が時間外労働の上限に抵触すれば、そのクリニックで勤務できなくなるという事態も想定される」
実際、働き方改革のための対応策として、「医師派遣の中止・削減」を挙げる病院も出てきている。
そうなると、このようなクリニックでは医師の確保が難しくなり、夜間や救急医療を標榜できなくなるだけでなく、診療科自体がなくなったり、廃業に追い込まれたりする可能性も。地域で子どもを産める場所がなくなってしまうといったシナリオもありうるのだ。
簡単に受診できなくなる恐れも
それだけではない。
「医師の働き方改革によって、患者はがんのような重篤な病気になっても、すぐに手術が受けられない事態も生じてくる」「患者はこれまでのように病院を簡単に受診できなくなるかもしれない」――。こう危惧するのは、国際医療福祉大大学院(東京都港区)教授で医師の高橋泰氏だ。
高橋氏は、「実は勤務医といってもいろいろで、ほとんど残業がない診療科もある。長時間労働が常態化していて、今回の働き方改革で改善をさせる必要がある勤務医は、手術や、集中治療室などで働く外科系の医師、救急医、出産を担当する産科医。またはバイトで生計を立てている研修医です」と解説する。
地域の病院では、派遣元である大学病院などとの調整がうまくつかず、医師が充足できなければ、医師不足が深刻になる。その結果、その病院でがんなどと診断されても、長い時間待たないと手術を受けることができなくなるし、夜間を含めた24時間対応の救急体制を維持できなくなり、受け入れを拒まれることも予想される。
さらに、1人の医師が主治医を続けることは難しくなり、複数の医師がチームを組むことになれば、何かあったときには誰に頼ればいいかがわからなくなり、患者や家族の不安につながることもある。
働き方改革の時間外労働の上限規制などを盛り込んだ「働き方改革関連法」は、2019年4月から順次施行されているが、医師の労働環境改善には長期的な見通しが必要なため、5年間の猶予が与えられて、2024年4月スタートになった経緯がある。
ところが、医療界はその間の丸3年近く、新型コロナウイルス感染症への対応に追われ、働き方改革への対策が十分にできていない。そのため、働き方改革で想定される長期的な課題、医師の診療科ごとの偏在問題には有効な手立てが見つかっていない。
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