「医師の働き方改革」で手術や救急に支障が及ぶ訳 来年春から「勤務医の残業時間に上限」の懸念点
高橋氏はかねて、診療科の偏在がこの国の医療提供体制の維持を脅かすかもしれないと訴えてきた。実際、医師の間でも仕事中心からワーク・ライフ・バランス(仕事と生活を調和させること)を重視する意識が高まっている昨今、術後管理や夜勤が多い外科や救急など外科系医師数の減少がここ20年間で顕著になっている。
「この改革は短期的に大きな副作用をもたらすだろう。だが、今改革をしなければ、(過酷労働といわれる) 外科系、救急、産科の医師のなり手が減少し、中長期的には日本の外科系、救急、産科などの崩壊が起きる」(高橋氏)
医師の働き方を変えることは、これからの日本の医療のためでもあるというわけだ。高橋氏は働き方改革をきっかけに、長時間労働が常態化している診療科の医師でもワーク・ライフ・バランスを保てるようになり、これらの診療科を目指す医師が増えることを期待する。
働き方改革ではまた、厚生労働省が、ほとんど勤務していない宿日直(しゅくにっちょく)と呼ぶ、いわゆる寝当直を労働時間から省ける制度の活用を促しているが、これを高橋氏は評価する。
もちろん、これらの対応は対症療法であり、医療の抜本改革には医療DX(デジタルトランスフォーメーション)が欠かせない。医療DXは患者へのホスピタリティー(心からの思いやり)や医療の質の向上、スタッフの労働環境改善、病院経営の改善などを実現するものだ。
高橋氏は「医療DXに積極的に取り組み、電子カルテなどの患者情報を複数の医師が共有する仕組みを整備し、生産性を上げるような働き方に変えて、働き方改革の副作用を減らす準備をすれば、医療の質を落とさず医師の労働環境を改善することは可能だと思います」と話す。
すでに働き方改革を進める病院も
厚生労働省が2022年6月に公表した「医師の働き方改革の施行に向けた準備状況調査」では、回答した3613病院のうち、勤務医の副業・兼業先を含めた時間外労働をおおむね把握しているとしたのは、1399病院(39%)にとどまっていた。
時間外労働時間の上限規制スタートを約1年後に控え、勤務医の長時間労働を解消しようと具体的な取り組みを始めている病院もある。
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院(名古屋市)には常勤医が約280人いる。院内に「働き方改革推進委員会」を設置しており、毎月開催する委員会で、診療科ごとや医師ごとの勤務状況を把握し、特定の医師などが過度な長時間労働になっていないかなどをチェックしている。また、毎年春ごろに医師は病院に対して副業・兼業の申請をしているので、病院は医師の勤務実態を把握している。
同委員会の副委員長を務める渡辺徹氏(事務部長)は、社会保険労務士の肩書も持つ。毎月の委員会で長時間労働が指摘されるのは、やはり救急や外科系の医師だという。渡辺氏は「初期研修を終えた後に専門医資格の取得を目指す3年目以降の専攻医に、長時間労働が目立つ。専門性を極めようと1つでも多くの症例に立ち会い、自己研鑽に一生懸命な医師がどうしても長時間労働になってしまっている」と言う。
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