田代氏は、何度も逮捕されるたびに「もう本当にやめるぞ!」「強い意志があればやめられるはずだ!」と決心していたものの、薬を目の前に出されたら、人間の意志は無力だったと回顧します。
現在は、自分が「薬物依存症」という「病気」であることを受け容れ、強い意志や根性があったところでどうにもならない、だからこそ、「薬物を一生やめ続けるための具体的な努力」に日々取り組んでいかなければならないことに気付いたと語られています。
前連載の第7回目にも書きましたが、不安やストレスを妄想することで解決しようとしても、それは「現実逃避」でしかなく、さらなる邪推を生んでは、ソワソワ、イライラが増すことになりかねません。
怒りは「自分」を攻撃する
そうであるならば(前回も書きましたが)、具体的・現実的対処策を決めるしかない。田代氏の場合は、「ダルク」という薬物依存症の人たちが集まり、支え合いながら、病気のメカニズムを学び、薬物依存者のいちばんの敵である「孤独」を回避する環境に入ることを選択しました。
怒りの感情は、人間の基本感情なので、「無くすことはできない」と考えたほうが無難です。ですが、「問題となる4つの怒りの発生パターン(①強度、②頻度、③持続性、④攻撃性)」があり、特に薬物依存症患者は「攻撃性」を避けなければならないと知っておくことが重要です。
怒りが攻撃性を持つと、物を、他人を、そして「自分を」攻撃するようになります。自分への最大の攻撃が自殺です。たとえばアーティストが、理想とする作品を創れないこと、家族が離れていってしまったことなどにより、アルコールや薬物におぼれてしまい、最後に自死を選ぶようなケースがこれです。2014年8月にこの世を去った、名優・ロビン・ウィリアムス氏の死因は自殺と見られており、薬物とアルコールの依存症だったことが知られています。
覚醒剤を常用するようになると、「人格退行」という性格変化が起こるといいます。人格退行により、我慢が出来ない子どものようになってしまい、さらに幻覚や妄想などの症状も表れ、しまいには罪を犯すことへの歯止めが効かなくなることもあるようです。
一般的に、人格退行を治す薬は存在しないと言われています。だからこそ、ダルクのような自助グループでは連帯感を武器に薬を断とうという取組みが講じられているものの、脱落者の中には、結局自殺による最期を迎えてしまう者も出てしまうのだそうです。
ともあれ、薬物依存のみならず、依存の果ての自殺を防ぐために、依存症患者が連帯し、お互いに支え合うことから「もう俺なんかどうなったっていいや」という孤独感を避けることはできるはずです。
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