この手の分析は、1990年代に年金制度の破綻に関する研究を発表した人たちが行ったものだが、その研究費の多くは金融機関が負担していた。そして誰一人として、2000年、2005年、2010年にスペインの年金制度に何が起こるかを正しく予測できなかった。ただし、公的年金を受け取れなくなるという悲惨な未来を予言することで不安の種を人々に植えつけることには成功した。
しかし、ここ数十年間、スペインでは年金受給者の数は常に増えつづけてきたが、雇用や生産性の増大によって、年金の財源は保たれてきたのだ。
年金の財源問題は人口増加や高齢化によってではなく、最近は、雇用喪失や生産性の低さ、または経済危機による経済成長の停滞などによって引き起こされることが多い。
すなわち、高齢化の影響を予測するには、年齢別の人口や年金受給者の数を知るだけでは不十分で(いずれにしても、すでに見てきたようにその数は正確にはわからないのだが)、生産量の推移を知ることも必要なのだ。だが、これもまた確実な方法はない。どこよりも多くの情報と統計技術を持っている国際機関でさえ、長期のGDPの推移を予測することはできていない。
パイ全体の大きさがわからないのに「その分配に参加する人の一部には行きわたらない」と言うのは、いんちきというものだろう。
財源を見直すことも可能
これまで述べてきたことからおわかりいただけたと思うが、人口統計学的に年金制度を維持できないという理論は間違っている。公的年金制度の財政均衡は人口だけに依存しているわけではないということを忘れているからだ。
この財政均衡は収入と支出に左右されるものなのに、この理論では支出の増加のみを考慮している点に欺瞞がある。公的年金制度を支えたいと真剣に考えるのであれば、支出が増えると同時に収入も増やせることを考慮しなければならない。
これまで反論してきたこの偽りの理論を正当化するための最初の罠は、年金制度が社会保険料によってのみ賄われると仮定している点だ。当然、他の財源を利用することもできるし、そうしている国も多いのに、あえてそのことには触れようとしない。
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