年金が社会保険料だけで賄われているとしても、社会保険料というものは、雇用量や就業率、賃金水準、生産量、市場におけるその推移、生産性、さらには不正や地下経済、所得分配といった一連の変数にも影響を受けることを考慮しなくてはならない。
この最後の所得分配という変数の重要性や、なぜ高齢化のみが財政破綻を引き起こすと仮定するのが間違いなのかは、簡単に説明できる。
年金制度における財政の健全性に及ぼす影響について、さまざまな状況を考慮することなく高齢化の影響のみで結論を導き出すことは間違いなのだ。そして、新しい財源を加えることができれば(新しい財源は間違いなく得られる)、現在の年金制度は完全に持続可能なのだ。
そのウソはどんな結果をもたらすか?
同じウソを繰り返しているとそれが真実として受け入れられるようになるとよく言われるが、まさにそれが年金について起こったことだ。
つまり、十分なお金を持てなくなるということを繰り返し言うことで年金は破綻するという将来のシナリオを、国民が受け入れてしまうのだ。
公的年金のこんな未来は避けて通れないものだとすることで、実際にこの制度を裏で支えている人々の連帯や最低限公平に保たれている所得分配といった大切なものが覆いかくされてしまう。そういったものなしには、年金だけでなく、あらゆる公共財や公共サービスの資金調達はできなくなるのは明らかだろう。
そのため、このウソは、資源の公平な分配についての社会的議論を回避することができる。さらに、公的年金の将来は経済政策次第で変えられるという事実も伏せられると、不安に駆られた人々は、退職後の収入を守るためには財政支出の削減や賃金や年金のカットもやむをえないと信じるようになる。しかし、これらの削減こそが年金制度を悪化させるので、年金制度は日に日に悪くなっていき、そのうち破綻するということになる。
その果てに、このウソを信じた人々は、自分の貯蓄を利益が少なくてリスクのより高い民間の年金基金にまわすようになる(しかしこれができるのは余裕がある人たちだけで、全員ができるわけではない)。
公的年金の不安定さを議論する場合に必ず提案されるのがこの私的年金だが、これはハイリスク・ローリターンのとても不利なオプションである。なぜなら、私的年金というものは、公的年金に比べて経済変動の影響をより大きく受けやすく、ひもづいている金融投資と同様に不安定なものだからだ。
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