さらに、個人貯蓄の資金も公的年金の場合とまったく同じように人口の変動に左右されることを考えると、このオプションを勧めること自体がでたらめである。将来、人口の高齢化によって将来の労働人口が生み出す収入も減少するというなら、存在するリスクは私的年金も公的年金の場合と変わらない。ちょっとした違いはあるものの、簡単に説明ができる。
私的年金とは、現役時代に積み立てて金融機関に預けてきたお金に他ならない。もしタンス貯金をしていたら、定年退職するときにはその価値は大きく目減りしているだろう。そこで、採算がとれるようにするために金融会社はそのお金を投資し、長期運用で利益を生み出そうとする。預金者がそのお金を引き出したいといってきたら、金融会社は貯蓄が投資された資産を売って、換金しなくてはならない。
民間銀行の巨大ビジネス
そして、経済市場にはそれらの資産を買い取れるだけの十分な収入と貯蓄が求められる。しかし、公的年金を支えるだけの十分な貯蓄がないなら、私的年金を調達するために必要な資産を買うだけのお金もないはずではないか。しかし、そうはならないということは、全国民が貯金できるわけではなく、富裕層の貯蓄を換金するのに必要な流動資金だけがあることが前提となっているからだ。
経済に関するウソのなかでも、このウソほど広く流布し、国民を決定的に欺いてきたものはないかもしれない。だが、これほど多くのメディアで拡散され、これほど多くの資源がその普及に投じられ、これほど長期にわたって同じ主張が繰り返されたきたてきたことには納得できる理由がある。
たとえば、スペイン政府が2021年に公的年金の支払いに費やす総額は1600億ユーロ強と見込まれている。この額は、あるいはこの一部の額だけだとしても、民間銀行にとっては巨大なビジネスを意味する。そのため、民間銀行は1980年代からこのウソを拡散するキャンペーンや都合のいい研究を組織したり、それらに出資したりしてきたのだ。
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