1つ目は、人口推移の予測の難しさである。
2つ目は、人口が年金に及ぼす影響は、市場における労働力や生産活動、さらにいえば経済全体と切り離しては考えられないという事実だ。
3つ目は、公的年金制度の収入と支出の財政バランスは保てるということだ。
人口の高齢化で将来的に年金を支えきれなくなると断言するには、総人口が時間とともにどう推移するかだけでなく、年代ごとの人口分布と、社会集団ごとの寿命の推移も考慮する必要があり、分析は非常に難しい。いまの技術では、将来の人口について科学的な予測ができないことがわかっている。
数年後の総人口や65歳以上の人口、または他の年代の人口すら正確にわからないのに、平均寿命や1人の女性から生まれる子供の数を予測するのは不可能だ。それなのに、30年か40年後には間違いなく年金の財源がなくなるほどの高齢化社会になっているなどと言い切れるだろうか?
2つ目の理由も同じように明快だ。
定年人口が多ければ多いほど年金受給者の数は増え、そのために必要な支出も増える。しかし、年金受給者の数が増えるからといって、必ずしも彼らの年金となる分の収入を生み出す人口が減るとは限らない。
この影響を分析する際、人口の推移を、労働市場、生産、そして社会全体の動向と切り離して考えることはできない。
必要な財源を確保できなくなる3つの仮定
高齢化が進むと将来の年金支給に必要な財源を確保できなくなるという主張は、以下のいくつか、あるいはすべての仮定のもとに成り立っている。
(a)労働市場から引退していく人口がより若い世代の人口に置き換わらない。つまり、就業率は増えない(働いていなかった人たちが労働市場に参入しない)、または雇用率は増えない(失業していた人たちは労働市場に参入しない)、あるいは移民は増えない。
(b)生産性は上がらないので、少ない労働力で生産量や収入を増やすことはできない。つまり、より少ない労働時間でより多くの財やサービスを生産するという、歴史を通して続いてきたプロセスが、ここに来て途絶える。
(c)人口の高齢化が恒久的なものになる。
しかし、これら3つの仮定はどれも現実的ではない。
高齢化が公的年金制度を破綻させることを「証明」しようとするモデルや分析は、往々にして、高齢化の影響ばかりを誇張し、雇用の増大の可能性と移民の流入を軽視しているか、あるいはまったく考慮していない。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら