紅白歌合戦をもっと「ブラボー」にする唯一の戦略 「3生」としてのシンプル性・サプライズ性を

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次に「準MVP」群を選んでみる。個人的にはこんな感じ。

・【紅組】あいみょん『ハート~君はロックを聴かない』
 ・【白組】藤井風『死ぬのがいいわ』
 ・【特別企画】安全地帯『I Love Youからはじめよう』
 ・【特別企画】桑田佳祐 feat. 佐野元春, 世良公則, Char, 野口五郎『時代遅れのRock'n'Roll Band』

今回、この原稿を書くために、再度録画を丁寧に確かめた。そして、ここに挙げた4組のパフォーマンスの共通点に気付いたのだ。

――冒頭に生パフォーマンスを加えている。

ここでいう「生パフォーマンス」に「生放送」という意味は入らない。生放送時には画面右上に「LIVE」の文字が入るのだが、安全地帯と桑田佳祐のパートでは、その「LIVE」が消えていたので、収録映像ということになる。

ただ、それぞれの冒頭が「生歌」「生演奏」だったことは確かなはずだ。具体的には、あいみょん『ハート』のギター弾き語り、藤井風のピアノソロ、安全地帯(玉置浩二)のギター弾き語りによる『メロディー』、そして桑田佳祐他による、ブルースセッション及び加山雄三『夜空の星』のカバー。

総じていえば「本編」の前に添えられたイントロとしての、シンプルなアコースティック楽器による生パフォーマンスである。これにback number『アイラブユー』冒頭のア・カペラ・パートも加えていいだろう。

「お、何が起こるんだ?」と音楽ファンの気持ちをわしづかみにする効能が、これらの生パフォーマンスにはある。わしづかみにするのは、サブスクで聴き慣れた高度に編集済みな演奏ではなく、今そこにいる音楽家本人が腕っぷしだけで勝負している緊張感だ。

そして、あらためて思ったのだ。やはりこれからの紅白は「3生紅白」だろう、と。

「編集済み映像インフレ時代」に生きる私たち

「3生紅白」とは何か。

2021年の年明けすぐ、つまり2020年紅白(玉置浩二がオーケストラをバックに『田園』を歌う圧倒的パフォーマンスを見せた回)が終わってすぐのこの連載で、私はこう書いた――「カラオケ・口パク・完パケ」を一概に否定するわけではないが、それでも、昭和の「生演奏・生歌・生放送」の「3生」の紅白を今でもこよなく愛する。

また、同記事では以下のような提案をしている――第2部を「リアリティー紅白」とする。(中略)最高の生歌に加えて、最高の演奏陣による生演奏、もちろん収録なし、一発勝負の完全生放送という、ステイタス感のあふれる紅白へと転換する。

ただ、今回主張したいのは、このような「昭和紅白懐古」としての「3生紅白」ではなく、現代の時流をも鑑(かんが)みた、それだ。

「編集済み映像インフレ時代」に私たちは生きている。いうまでもなくYouTubeやTikTokなどのことを指している。無駄な部分やNGがきれいさっぱりカットされ、過剰かつ下世話なテロップが付けられた編集済み映像が氾濫して、価値が目減りしている時代。

反面、とりわけワールドカップ中継がその代表だが、生の動きから一瞬たりとも目が離せない映像コンテンツの価値は決して目減りしない。

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