近年、金融当局や銀行や大規模な雇用者団体は、雇用をつくりだすためには賃金を下げなくてはならないと、メディアを通してまるで呪文のように唱えつづけている。
「スペイン銀行によると、雇用創出は賃金の抑制のおかげだ」
「7パーセントの賃金カットで10パーセントの雇用増」
「スペイン経団連とスペイン中小企業連合は、さらなる雇用喪失を避けるために賃金の抑制を強く主張」
といった具合だ。
似たような例をいくらでも挙げることができる。しかし、いくら繰り返したところで、これらがウソであることに変わりはない。
ケインズは1929年に、こういう主張を擁護できるのは「頭の中がくだらないことでいっぱい」な者だけだと言っている。それはなぜなのか、これから見ていこう。
どこがウソなのか?
雇用を増やすためには賃金を引き下げたり最低賃金制度を廃止したりしなければならないという理論が真実ならば、これまでの研究やデータが、現実的にそういうことが起こっていることを示しているはずだ。しかし、そうした事実を示す証拠は見られない。
逆に、賃金が高い国ほど失業率が低いことは、調べれば容易にわかる。さまざまな調査が、賃金の抑制を擁護する人たちの主張とは反対の現象が起こっていることを示している。実際、賃金が上がるのと同時期に雇用が増えたという現象は多く見られる。
たとえば、1945年から1970年までの「資本主義の黄金時代」と呼ばれる時期には、西側諸国のほぼ全域でこの現象が起こった。ヨーロッパでは1980年から2005年の間に雇用が増えたが、同時に賃金も上がっている。そして雇用が減った時期には賃金も下がった。また、スペインでは「近代の先進国では前代未聞」といわれるほど賃金が下がった近年の経済危機の最中に、失業率が高くなった。
さらに、最低賃金の設定や引き上げが雇用創出を妨げるという事実がないことも明らかになった。
アラン・クルーガー、ローレンス・カッツ、およびデヴィッド・カードが1992年と1993年に行った調査では、最低賃金を引き上げたアメリカのさまざまな州で雇用も増加したことが示された。のちに、他の州でも1990年から2006年までに同様のことが起こっていたとわかった。
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