第2に、たとえ労働力を「商品」の1つとみなしたとしても、その価格は単純に需要と供給の関係から決定することはできない。あらゆる財において需要と供給の関係には理論上の限界がある。
しかし、ここではそれ以上に大きな限界が存在する。つまり、労働力の供給の変動によって賃金(価格)が上がったり下がったりすると、所得の分配にも明らかな影響を与え、それは他の財の需要や価格、ひいては労働力の需要にも影響を与える。
要するに「雇用を創出するには賃金を下げなくてはならない」という説は誤りである。
そのウソがどんな結果をもたらすか?
高い賃金は雇用を破壊するという考えが浸透すると、多くの人の生活状況に悪い影響を与える4つの結果がもたらされる。
まず第1には、わずかなお金でやりくりしなければならなくなり、低賃金で不安定な雇用から生まれる貧困を根絶するはずの労働者の権利や最低賃金の保証などを手放さざるをえなくなる。しかも、低くなった賃金が完全失業率の低下につながることもない。
第2に、理屈の上では利益は増大するが、それはすべての企業で起こることではなく、市場支配力が最も大きい企業にしか起こらない。市場全体で賃金が下がると消費が減るので、大半の企業の売り上げも落ちる。その危機を回避できるのは、消費者たちにとっての絶対必需品を提供することで確固たる需要を手にしている企業か、または自社製品を海外市場で売っている企業だけだ。
この状況は、富の集中を高め、保護されていない弱小企業の経営を悪化させ、大企業の支配を拡大させる。これはまさに1980年代以降に起きたことで、新自由主義的政策が消費需要を低下させ、その結果雇用量の減少がもたらされた。
第3に、全体的に賃金が下がることによって、収入が減った多くの家庭や売り上げが落ちた企業、さらには貧困の拡大に対応しなければならない公共部門の負債を増大させる。
最後として第4に、賃金引き下げ政策は、経済全体、雇用、投資、経済成長の歩みを遅らせる。
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