イギリス、フランス、ドイツ、ハンガリー、スペイン、さらにOECD諸国全般で行われた別の調査もある。そこでは、最低賃金の引き上げが、雇用量に対してマイナスの影響を及ぼさず、たとえ及ぼしたとしてもごくわずかだったり、労働人口の一部のみへの影響にとどまったりしたことが明らかになった。
社会保険料などの引き上げによる人件費の上昇は、雇用を破壊するとか、雇用の創出に影響を及ぼすともよくいわれるが、実際にそれを示す明確な根拠は存在しない。
さらには、雇用創出には賃下げが必要だという説を正当化するような根拠もない。
結局のところ、雇用量を増やすためには賃金を下げる必要があるという理論を裏付けるものはない。実際にはむしろ逆の現象が起こっており、賃金の増減以外にも雇用と失業の変動にかかわる別の要素があることもわかった。
長期的な雇用の推移については、経済政策の一般的状況や、投資、金利、資本コスト、技術革新のペース、さらに一般的には、需要の推移などの要素によってのほうがよく説明できるというデータがある。加えて、失業率の推移を左右するのはGDPや労働時間であって、賃金の動向でもなければ、自由主義経済学者たちが言うように、労働者の権利を認めることで労働市場が硬直化することでもない。
不可能な前提が必要
実際に、賃金の引き上げが雇用を壊し、その逆もしかりであると主張するためには、2つの前提が必要である。
1つ目は、すべての市場が完全競争市場であること。
2つ目は労働を商品の1つと考え、その価格(賃金)は労働の需要と供給によってのみ決まるという前提だ。
1つ目については、実際にはほぼありえない。労働市場のような干渉を受けやすい市場ではなおさらだ。
2つ目も、さまざまな理由から受け入れがたい。
第1に、労働市場でやりとりされる「商品」は「労働力」であり、人間のさまざまな状況にかかわっていて、どう考えても商品と呼ぶことはできない。人間は利益を生むために生産されたものではない。また、労働にかかわる状況も倫理的原則から逸脱したものであってはならないため、労働力を買った者が労働者を「消費」したり、好きなように使ったりすることは許されない。
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