是枝監督も訴える「映画界のハラスメント」の深刻 2022年はハラスメントに関する報道が相次いだ

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この労災保険の利用者は安全研修を受けないといけない。同団体の森崎代表理事も「これをメリットと受けとめると、安全研修の中には当然、安全衛生対策としてハラスメントがあってはならないということもあり、職場の労働環境の改善にもつながる」と期待を寄せている。

また同協会の活動の一環として「芸能従事者こころの119」も開設されている。コロナ禍で芸能従事者の自死が相次いだ状況を踏まえ、彼らに対するメンタルケアの重要性が広まったことから、24時間いつでも臨床心理士に相談できる相談窓口を用意した。顔や声が特定されないメール相談形式を採用し、利用ハードルを下げる工夫を行っている。

同団体の森崎代表理事も「芸能界にも働き方改革が必要。5年前、10年前に比べて、芸能従事者が声を出しやすい環境になってきたとは思いますが、まだまだ改善すべきことはたくさんあります。これから働く方にとっては快適な業界だと思ってもらえるよう頑張りたい」と意気込みを語っている。

業界の体質改善に向けた具体的な取り組みも

近年の映画業界のハラスメント報道などを踏まえ、経済産業省の主導、映連などの業界団体との協力で、映像制作適正化機関(仮)の設立が準備されている。

こちらでは映画制作現場の適正化に向けた業界ガイドラインの策定や、ハラスメントのない作品であるという認定制度の運用などを掲げており、業界の体質改善に期待が寄せられる一方で、低予算映画や若手の映像作家が蚊帳の外になるのではないかという不安の声も寄せられている。

2023年以降の映画業界はどう変化していくのか。こちらの展開にも注目したい。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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