是枝監督も訴える「映画界のハラスメント」の深刻 2022年はハラスメントに関する報道が相次いだ

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是枝裕和監督が、諏訪敦彦監督とともに共同代表を務める「日本版CNC設立を求める会」が提言するのは、若手育成や映画教育などの「教育支援」。ハラスメント対策支援、ジェンダー平等の促進などの「労働環境保全」。企画開発・制作・国際共同製作などを支援する「製作支援」。映画館や配給・海外展開・ビデオ・配信などを支援する「流通支援」という4本の柱だ。

日本よりもひとあし先に、映画文化振興政策に取り組んでいるフランスのCNC(国立映画映像センター)、韓国のKOFIC(韓国映画振興委員会)に相当する統括機関を設立しようというのが同団体の提言の趣旨だ。

是枝監督
今年6月に行われた「日本版 CNC 設立を求める会」記者会見の様子(写真:「action4cinema」提供)

CNCやKOFICの運営は、観客や視聴者が、劇場やテレビ、配信などに支払ったチケット代の一部を徴収・積み立てる。そしてそのまとまった資金を活動資金に、企画・制作・配給・興行などに再分配する、という仕組みとなっている。

日本でこの仕組みが成り立つためには、映画製作配給大手4社(東宝、松竹、東映、KADOKAWA)で構成される団体、一般社団法人日本映画製作者連盟(通称・映連)の協力が不可欠で、同団体としても、映連との協議を複数回にわたって行ってきた。

だがその協議の中での、映連サイドからの回答は「日本映画界における自律的で循環的な共助のシステム構想については総論で賛同する立場である」というもの。問題意識は一致しているものの、その財源の調達方法についてはまだ折り合いがついていないのが現状だ。

興収にかかわる利害関係者は、興行会社、外国映画の配給・提供会社、製作委員会を構成する出資会社、アニメーション製作・配給会社など多岐にわたるため、「映連の意志だけではいかんともしがたい」というのが映連側の考えだというが、協議はまだ始まったばかり。どういう落としどころが探れるのか、今後の経緯にも注目したい。

文化芸術に携わる人のフリーランス率は9割

映画やドラマの現場では、多くのスタッフ・俳優たちがフリーランスで構成されている。文化庁の調査によると、文化芸術に携わる人のフリーランス率は94.6%。実質的には非常に多くの人が不安定な立場で仕事をしている現状であるといえる。

それゆえ「ハラスメントなどのトラブルが起こったときにどこに相談すればいいかわからない」「病気・ケガなどライフリスクにかかわる保険制度がなく、安全管理にも問題がある」「社会保障制度が整備されていない」「同じ仕事でも男女でギャラに差がある」といった不安を抱える人が多かった。

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