何センチだろうが身長は大切な個性で、後ろ暗く思うものではないはずだ。
そのままでもいいし、服や気分に合わせた靴を履いて変えてみるのもいいだろう。
シークレットシューズという呼び名も、もう変えたほうがいいのかもしれない。
針生さんの話にうなずいていると、韓国アイドルを思わせるおしゃれな男性が入ってきた。
年齢は20歳くらいだろうか。岐阜県から来たお客様で、「直接試したいから来ちゃった」という。熱心にフィッティングを重ね、やがて気に入った一足を見つけた彼は、「これ、このまま履いて帰ります」と笑った。
来店したときより、7センチほど背が高くなっている。
足取り軽く出ていく彼を見送って、私も店を後にした。
買える身長、買えない心
ところで、雄一さんの背筋をピンとさせた結美さんの言葉である。
打ち合わせから数日後、「本当にオレみたいにちっこい男でいいの?」とうそぶいた彼を見て、彼女は付き合いはじめたころの話を振り返った。
婚活で出会ったふたりが打ち解けたのは、ふとしたことから同じプログレッシブロックの愛好者だとわかったからだった。
男のほうが女より大きくあらねばと、“見た目の釣り合い”にもがく雄一さんに反して、結美さんは“心の座りのよさ”を大切に思っていた。
「私、今まで男性受けする女性に思われるよう、がんばってきたんだよね。好きな音楽を聞かれたら、J-POPとか、無難でみんなが知ってる曲を挙げたりして。“可愛い女の子”なんてガラじゃないのに、そうやって自分にゲタをはかせて無理してた。
でも雄さんは今まで誰に話しても“は?”って言われたプログレの話もちゃんと聞いてくれて、しかも私より全然詳しくて、なんかもうカッコつけずに裸足でのびのびいられるなって思ったの。
亡くなった祖母によく“身の丈に合う人を選びなさい”って言われてきたんだけど、“ミ”は“ミ”でも雄さんとは“趣味の丈”がぴったり合う。背は私のほうがちょっと大きいけど、大きい女はだめですか? 私、趣味の丈が合うほうが、ずっとずっと大事だと思う」
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