「……実際、婚活がうまくいかなくて断られるときは“やはり背が低いから頼りなく見えたんじゃないか?”とか、“身長であるなしを判断されたのかもしれない”って、自分自身が身長を“悪者”にしていましたね」
「小さい女性から早く売れてしまう」
雄一さんは大学時代、180センチを超える友人が小柄な彼女を連れてきたとき、「お前みたいにデカイ奴がそこまでちっちゃい子をもってかなくてもいいだろ!?」と、理不尽な怒りを覚えたこともあるという。表向きは「なんだよ! オレが30センチも低いコと付き合おうとしたら、相手は小学生になっちゃうよ!」などとおどけながら、極端な身長差のある男を選んだ女性にも、ひとこと言ってやりたい気になった。
「あいつらは身長で相手を選んだ」と決めつけながら、自分だって“自分より背の低い女性”を、目を光らせて探していた。「小さい女性から早く売れてしまう」などと気をもんで、焦りもした。
やがて社会人になっても、身長の悩みは頭の中に渦巻いていた。
ラッシュの電車に乗れば、女性と奪い合って吊り革につかまる自分を惨めに思い、吊り革の上のポールをつかむ長身の男を卑屈な目で睨め上げた。もしここで今何か起こっても、ああいう大きな男はみんなを守る側で、自分みたいなホビットは期待もされず、女子供と一緒に、それこそ好きな女さえ他の男に守ってもらう側なんだ――若かった雄一さんはそんなふうにひねて、縮れた気持ちを持て余していた。
「結美と出会って過ごすうち、くしゃくしゃした気持ちが鎮まっていったのに、“セッシュ”に寝た子を起こされてしまった」と雄一さんは苦笑する。
けれど、“身長の呪い”をほろりと解いてくれたのは、ほかでもない結美さんだったという。
「彼女の言葉に、ガーンと頭を殴られたような気がしましたね。オレはなんて馬鹿だったんだって。身長へのこだわりがムクムク伸びて大男みたいになっていたのは、誰でもない、自分だったんですよ。自分で自分を見下して、あざけっていた」
結美さんは彼に、なんと言ったのか。
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