誤解多い「日本の生産性」物価高の今、やるべきこと 日本に欠けている「ポスト・コロナの構想力」

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全体の財・サービスを生活必需品と通常の財・サービスに分けて考えてみよう。インフレによって、生活必需品、通常の財・サービスの価格がともに上昇すると、所得に占める生活必需品の割合が高まってしまう。生活必需品は最低限の生活を維持するために、価格が上昇しても一定量の消費が必要になるためだ。

黒田東彦・日本銀行総裁が、人々が物価高を許容できるかのような発言をして批判されるようなことがあったが、これは物価上昇をマクロ指標としてとらえ、財やサービスの特性を無視したかのように捉えられたことにも原因があるだろう。

社会的共通資本の考え方は、財・サービスを一律に捉えず、こうした社会生活で必需品とされる財については、市場経済とは違う供給方法や価格付けを構築すべきであると論じている。

日銀に景気対策を押しつける政府

このような制度を考えた場合、生産性はどのようになるだろうか。

生活必需品を提供する供給主体のガバナンスにもよるが、生産性の向上はおそらく生活必需品以外の産業に期待せざるをえないかもしれない。逆に生活必需品を提供する産業や企業に技術革新を促し、こうした財・サービスの価格低下を促すということも考えられる。いずれにしても、従来の生産性向上に伴うマクロ的な帰結とは異なってくるだろう。

岸田首相が掲げる「新しい資本主義」の要は、人的資本投資であり、その意味では社会的共通資本やModern Supply Side Policyと共通点がある。しかし、この人的資本投資を除くと、政府は、依然として日本銀行に景気対策のすべてを押しつけ、社会構造の改革にまで踏み込んだイエレン財務長官のような大きな構想を提示していない。現在の日本経済に必要とされるのは、リーダーによるポスト・コロナの構想力だろう。

宮川 努 学習院大学経済学部教授

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みやがわ つとむ / Tsutomu Miyagawa

1978年、東京大学経済学部卒業、1978年~1999年日本開発銀行(現日本政策投資銀行)勤務、1999年から現職。2006年経済学博士号修得。最近は生産性に関する実証研究に取り組む。著書に『生産性とは何か』(ちくま新書)、『インタンジブルズ・エコノミー』(淺羽茂氏、細野薫氏と共編、東京大学出版会、2016年)、『Intangibles, Market Failure and Innovation Performance』(Bounfour氏と共編、Springer、2015年)。

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