企業業績の改善が先か賃上げが先かというのは「鶏と卵の関係」と言えるが、事業会社(日立製作所)出身の中村氏らしい発言だと言える。中村氏が講演で示した「所得から支出への好循環」というフローチャートでも、「企業利益増加」が中心に据えられていた。
中村氏のハト派的な主張は、田村氏による金融緩和の副作用を強調したタカ派的な主張と正反対と言える。しかし、中村氏が事業会社出身、田村氏が銀行出身という点を考慮すると、それぞれの「ポジショントーク」に徹したという意味では整合性が取れている。
証券会社出身の高田氏は早期の「点検・検証」は否定
高田審議委員(元岡三証券グローバル・リサーチ・センター理事長 エグゼクティブエコノミスト)は日経新聞と時事通信のインタビューに応じた(記事は10日配信)。高田氏は出口戦略について「議論するのは時期尚早だ」と述べ、「点検・検証」についても「まだそういう局面になっていない」と、現時点では消極的な姿勢を示した。足元では、審議委員がそれぞれの政策スタンスを示す例が目立っているが、高田氏のインタビュー記事は黒田総裁の主張に近く、出口戦略を意識させるものではなかった。
もっとも、高田氏は「まだまだリスク要因は多い。今の時点で従来のフォワードガイダンス(政策金利の先行き指針)を維持するというのが適当ではないかと思う」「毎回の金融政策決定会合の議論の中で常に政策の見直しや点検の必要性はないか見極めるということだと思うし、毎回、自分もその気概を持って臨んでいる」(時事通信)とした。これらの発言はいずれも「現時点」における意見を強調しており、将来的に「点検・検証」を実施する可能性は否定していない印象を受ける。
田村氏、中村氏、高田氏に共通しているのは、金融緩和の副作用自体については否定しなかった点である。「点検・検証」を強く否定した中村氏も「副作用については、緩和が非常に長引いているので、そういった面で言うと、金融機関の収益力が下押しされているということは当然ながらある。それが累積している点で言うと副作用として出てきているだろうなと思う」とした。
一方、「そのほかには国債市場の流動性低下というものがあるが、いろいろと手は打ってきているので、その対策は進められていると思う」とし、国債市場の機能度低下という論点からは距離を取った。
高田氏も「金融機関の収益悪化や債券市場の流動性の低下など、さまざまな副作用もある。大規模な緩和政策をしている以上、不可避的にある程度の副作用は生じるが、市場の状況をしっかりと見極め、国債補完供給など、それに対応をしてきているし、今後も対応していかなくてはいけない」(時事通信)と述べ、大規模緩和による金融機関の副作用についての問題意識はある一方で、市場機能については「対応」ができているという認識であることがわかった。
債券市場のストラテジストの経験が長く、審議委員の中では最も市場機能の低下を懸念している可能性がある高田氏がこのようなスタンスであるということは、当面は日銀が市場機能を警戒して国債買い入れ等のスタンスを変更する可能性は低いだろう。
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