新総裁就任前に動き出した日本銀行の金融政策 審議委員のポジショントーク連発の背景を探る

✎ 1〜 ✎ 76 ✎ 77 ✎ 78 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

金融機関出身の田村氏は、大規模緩和の副作用の観点から金融緩和に否定的なスタンスとなりやすい。とはいえ、10月決定会合の「主な意見」において副作用に関する意見は「金融政策を直ちに変更する必要はないが、副作用に目を配るとともに、物価高が家計の行動や賃金にどのような影響を与えるのか、謙虚に予断なく検証していく必要がある」という「控えめな意見」にとどまっていた。

今回の田村氏の発言はかなり踏み込んでおり、意図的に強い表現を使っている可能性が高い。田村氏の個人的な意見というよりは、将来の日銀のスタンス転換を意識した組織的なアドバルーンのように思われる。2023年春以降、新総裁の下で「点検・検証」によって、強力なフォワードガイダンスが柔軟化される可能性が高くなっていると判断できる。

事業会社出身の中村氏は「点検・検証」を否定

田村氏の発言の後、注目を集めたのが中村豊明審議委員(元日立製作所 取締役)の12月7日の講演だった。中村氏は金融政策の「点検・検証」の必要性について、「今のタイミングはどうか」と否定的な姿勢を示した。また、「田村委員の発言は新聞などで見たが、そのような発言をしているのは承知している」(時事通信の詳報より、以下同)としたうえで、日本の労働生産性の低さを背景とした「サービス分野の物価上昇率」の低さを理由に、「点検・検証」の状況には至っていないとした。

労働生産性の低さへの言及があったように、中村氏は「労働生産性改善→賃上げ→インフレ」というパスを重視していることがわかる。

賃上げについては「従業員の立場からしても自社の業況については十分に理解をしているわけなので、業績があまり強くない中で、強い賃上げ率を実現、もし、そういうことが起きれば、きっと業績に悪影響が出るのではないか、という心配が当然ながら従業員には出てくるので、これは結局、賃上げがあった中でも、貯蓄に回ってしまう」と言及。

さらに「これはボーナスだったら貯蓄に回る、基本給が上がれば消費に回るという問題ではなくて、将来どうなるかということを考えているので賃上げというのも業績の向上とともに実現しないと、なかなか経済全体には回っていかないだろうというのが私の意見だ」と述べた。

次ページ「銀行出身」と「事業者会社出身」のポジショントーク
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事