日本人は現状追認をリアリズムと勘違いしている 「古典の叡智」を生かせていない保守とリベラル

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古川:そもそも「リアリズム(現実主義)」という言葉の意味を正しく理解していない日本人が多すぎると思います。たとえば先日、フランスのエマニュエル・トッド氏が日本のテレビ番組に出て、橋下徹氏と木村太郎氏の3人で討論していたのですが、見事に会話がかみ合っていませんでした。

トッド氏が、「現実主義的に、日本は対米依存の安全保障を見直すべきだ」と主張するのに対して、日本の両氏は口をそろえて、「現実的に、日本は憲法9条があるから安全保障はアメリカに頼らざるをえない。したがって日米同盟の強化以外に選択肢はない」と言う。「現実的に」という言葉の意味が、まったく食い違っているわけです。

リアリズム=現状追認という勘違い

:日本では現状追認をリアリズムと勘違いしているわけですね。

佐藤:日本が自らの価値判断と国家戦略に基づき、主体性をもってウクライナを支援すると言うのならいいでしょう。ところが政府のやっていることは、「国際世論」は反ロシアだから日本もウクライナ支援に加わるという、ただそれだけです。

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だいたい、本当に国際世論は反ロシアで固まっているのか。そもそもこの点が怪しい。中国やインドは明らかに米欧諸国と距離を置いているではありませんか。

日本で言うリアリズムとは、物事を主体的に考えるのをやめ、ひたすらアメリカに付き従うという意味です。つまりは思考停止の状態で事大主義にひたること。

戦後の日本ではリベラルが、観念的な平和主義というユートピアニズムに執着した結果、みごとに信用を失墜させ、保守に塩を送ることになった。他方、保守は現実的に考えてアメリカに従うべきだという立場だったものの、そこからどう脱却するかについて考えがなく、後になればなるほど事大主義に堕していった。こちらも観念的なユートピアニズムに陥ったのです。その意味では、今や保守もリベラルに塩を送っている。

中野:保守もリベラルもお互いに塩を送り合い、両方ともしょっぱい存在になってしまったということですね(笑)。この現実をしっかり踏まえる必要があります。

(構成 中村友哉)

「令和の新教養」研究会
「れいわのしんきょうよう」けんきゅうかい

この複雑で不安定な世界を正しく理解するためには、状況を多面的に観察し、幅広く議論し、そして通俗観念を批判することで、確かな思想を鍛え上げなければなりません。内外で議論の最先端となっている書籍や論文を基点として、これから世界で起きること、すでに起こっているにもかかわらず日本ではまだ認識が薄いテーマを、気鋭の論客が読み解き、議論する研究会です。コアメンバーは中野剛志(評論家)、佐藤健志(評論家、作家)、施光恒(九州大学大学院教授)、古川雄嗣(北海道教育大学旭川校准教授)の各氏。

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