日本人は現状追認をリアリズムと勘違いしている 「古典の叡智」を生かせていない保守とリベラル

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中野:1980年代にはロバート・ベラーの『心の習慣』が出版され、その後もロバート・パットナムの『孤独なボウリング』など、アメリカのファミリーが崩れ、個人主義が蔓延してきたことに警鐘を鳴らす本がどんどん出されました。それを日本人はせっせと翻訳しているのに、いまだにステレオタイプの日本特殊論から抜け出せていないわけです。非常に根の深い問題です。

古い自民党政治の重要性

:最近出版されたマイケル・リンドの『新しい階級闘争』(東洋経済新報社)も参考になると思います。この本は私が監訳したのですが、戦後のアメリカでは政治や官僚などがさまざまな中間団体の利益を丁寧に調整することで、安定した経済成長と福祉を両立させてきました。リンドはこれを民主的多元主義と呼んでいます。

施 光恒(せ てるひさ)/政治学者、九州大学大学院比較社会文化研究院教授。1971年福岡県生まれ。英国シェフィールド大学大学院政治学研究科哲学修士(M.Phil)課程修了。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了。博士(法学)。著書に『リベラリズムの再生』(慶應義塾大学出版会)、『英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる』 (集英社新書)、『本当に日本人は流されやすいのか』(角川新書)など(写真:施 光恒)

一般に、中間団体とは労働組合や商工会、農協、地域団体などのことを指します。リンドはその地域で大きな政治力を持つボス的存在の人物の重要性も語っています。ボスはその地域の利権の保全やその配分に大きな役割を果たし、ブローカーのように振る舞います。インテリは、こうした地域のボス的存在を前近代的な村社会の遺物だと受け取り、非常に嫌います。しかし、彼らが地域の利権を守り、調整を担ってきたことで、その地域が広く潤ってきたことも確かです。

ところが、新自由主義改革が強行されたことで、地域のボスたちの影響力は低下しました。その代わり台頭してきたのがグローバルエリートです。これにより、経済格差が拡大し、グローバル企業や投資家(オーバークラス)と庶民層の間で政治的影響力に大きな差が生じてしまったのです。そのため、リンドは地域を疲弊させるグローバルエリートより、地域のボスのほうがよほどマシだと言っています。

リンドの言っていることは、日本で言えば古い自民党政治のことです。日本でも古い自民党政治は利権政治だとして、新自由主義的構造改革の標的にされました。しかし、日本でこの30年間批判されてきたものこそ、リンドは重要だと指摘しているのです。

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