「数学嫌い」を放置する日本で人材が育たない事情 小・中学校で理解を無視した「暗記教育」が横行
最近、いわゆる「リケジョ」ブームなるものを感じる。理系分野に進学の少なかった女子を増やすために、理数系に興味・関心の高い女子に特別な授業等を施して才能を伸ばす試みによるものである。筆者も90年代後半からのべ200校の小中高校で出前授業を行ってきたが、その中にはSSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校で多くの優秀な女子生徒に出会って感激した思い出がある。
一方で筆者は、児童養護施設や問題が多いと言われる高校での出前授業も手弁当で行ってきたように、あまり光が当たらない学校などにも積極的に訪ねた(出前授業の半分は手弁当)。そのような経験から思うことは、初等中等教育、とくに小学校での算数教育が重要だということである。
タレントやキャスターとして活躍する東京大学工学部卒業の女性はかつてテレビ番組「徹子の部屋」で、「自分が受けた小学校の算数授業では、考える面白さを皆が教えられて、クラスの皆が算数好きでした」という趣旨の内容を述べた。これはすばらしい発言であるが、現状は「理解」を無視した「暗記教育」が横行しているのだ。
理解を無視した暗記教育の横行
拙著『AI時代に生きる数学力の鍛え方』では、3+3+3+3+3+3=18 という計算を示す前に「サブロクジュウハチ」という言葉だけ覚えさせているような、呆れた教育の事例もいくつか紹介しているが、本書の核心は「速さ・時間・距離」の意味を理解させることなく円の中に「は・じ・き」なる図を描いて公式を暗記させたり、「比べられる量・もとにする量・割合」の意味を理解させることなく円の中に「く・も・わ」なる図を描いて公式を暗記させたりする、「理解」無視の「暗記教育」の横行についてである。
だからこそ、「赤いテープの長さは120cm」「赤いテープの長さは白いテープの長さの0.6倍」を示す図を選ぶ4択問題(2012年度全国学力テストの小6対象問題)の正解率は34.3%で、赤と白を取り替えた選択肢を選んだ児童は50.9%であったこと。あるいは、10%の食塩水の意味を問う同一内容の問題が2012年度全国学力テストと昭和58年度全国規模の学力テストで出題され(理科分野、中学3年対象)、前者の正解率は52.0%で、後者の正解率は69.8%であったこと。等々の事例が報告されているのである。
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