崩壊の道を静かに進む「水道」老朽化の悲惨な未来 「蛇口をひねっても出ない」そんなことが現実に

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日本では毎年2万件以上の漏水・破損事故が起きている。

ここ数年を振り返ると、2018年7月には東京都北区で50年前に布設された水道管が破損して、商店街が水浸しになった。2019年2月には静岡県浜松市で、老朽化のため撤去予定だった水道管が破損し、5kmほど離れたところでも水の濁りが確認されている。

2019年3月には千葉県旭市だ。市内の7割以上にあたる約1万5000戸が断水した。この旭市では2022年2月にも水道管破損によって断水し、小中学校が休校するなどの影響が出た。2020年1月には横浜市で約3万戸が断水した。

まだまだある。2021年10月、和歌山市内を流れる紀の川にかかる水管橋と呼ばれる水道用の橋が老朽化のために崩落し、約6万戸が断水。その後の調査で崩落の直接的な原因は、水道管と橋の構造部をつなぐ部分の塩害や鳥の糞の蓄積などによる腐食とされたが、この断水は6日間続いた。

2022年は6月に札幌市の住宅街で、布設から48年が経った水道管が、同年7月には北九州市で、布設から56年が経った水道管が破裂した。北でも南でも商店街でも住宅街でも、こうした事故が、規模はともかくとして1日当たり50件以上起きている。

なかでも記憶に深く刻まれているのは、2011年6月に京都市で起きた破損事故だ。水道管の破損は近くにあったガス管の破損を招き、水道だけでなくガスインフラにも被害を及ぼしてしまった。

水道管の更新率は0.667%

どれも、老朽化した水道管やその周辺設備を更新していれば防げた事故だ。頭のいい人はすぐにそう指摘できる。しかし、現場での対応が追いついていないのが現状だ。

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追いつかないのは人間の心理も同様だ。ニュースなどで、道路から水が噴き出している映像を見て「明日はわが身」と思える人は少ない。見ている現象は、老朽化というどこででも進行している事態によるものだが、何かしらの特殊な事情がそこにあったと思い込んでしまう。

今、日本全体の水道管の更新具合を示す更新率はだいたい何%くらいか見当がつくだろうか。

答えは0.667%(2018年度)。2016年度には0.75%。2001年には1.54%あったが、現在のそれははるかに及ばない。1980年以前に布設され寿命を迎えた水道管を、平均的に更新していくには、1.14%という数字が求められるが、それを下回っている。インフラの更新は老朽化に追いついていないのが現状だ。

では、今のペースではいつになったら水道管の更新が終わるのか。10年後? ご冗談を。20年後? とんでもない。50年後? まだまだ。

答えは130年以上先だ。

すべての水道管を更新し終わる頃には、今、この瞬間に更新が終わった水道管が、とっくに寿命を迎えている。

蛇口をひねれば(最近は、スライドさせたり手をかざしたりするだけのことも多いが)いつでも水が出るという現状が、いつまで保たれるかはわからないのだ。

加藤 崇 フラクタ会長、東北大学特任教授(客員)

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かとう たかし / Takashi Kato

早稲田大学理工学部応用物理学科卒業。元スタンフォード大学客員研究員。東北大学特任教授(客員)。ヒト型ロボットベンチャーの株式会社シャフトを共同創業、グーグルへ売却。2015年にフラクタをシリコンバレーで創業、CEOに就任(現会長)。アメリカ・カリフォルニア州在住。

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