崩壊の道を静かに進む「水道」老朽化の悲惨な未来 「蛇口をひねっても出ない」そんなことが現実に

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日本の水が危ないということは以前から言われてきた。ただ、その場合は、水源が枯渇してしまうのではないかとか、その水源が汚染されてしまうのではないかとか、資源としての水そのものに注目されることが多かった。また、渇水にあえぐ地域がある一方で水害に見舞われる地域があるといったように、バランスも話題になることがあった。

しかし今、最も危機を迎えているのは、当たり前のように存在してきた水道というインフラだ。

よく知られているように、日本の人口は約1億2780万人だった2011年以降、減少の一途をたどっている。人口減少先進国である日本の2022年3月の確定値は約1億2510万人で、2055年には1億人を割るとも言われている。

人口減の理由は少子化だ。2021年の出生数は約81万人と過去最少を記録した。戦後の第1次ベビーブーム、1949年の出生数は約270万人、第2次ベビーブームの1973年には約209万人だったことを考えると、激減だ。1989年には合計特殊出生率が1.571を記録して1.57ショックと言われたが、2020年のそれは1.34にまで下がっている。

水の需要のピークは2000年

一方、2021年の死亡数は約144万人。新しく生まれる赤ちゃんが減り、その1.8倍近くの人が亡くなっているのだから、人口が増える理由がみつからない。

人口減はさまざまに影響を与える。労働力が不足する、消費をする人口が減る、国力が下がる、などいろいろなことが言われるが、もちろん水インフラにも無関係ではない。人口が減ると、水道管を通して各家庭や事業所に水を届けている水道事業者にとっては、お客さんが減ることになる。

総務省の統計によると、2021年の日本の人口は2020年に比べて約64万人減っている。この64万人という数字は、東京のベッドタウンでもある千葉県第2の自治体・船橋市の人口に匹敵する。たった1年で船橋市民がいなくなり、船橋市民向けの水道施設が使われなくなる計算だ。64万人のために巨額の投資をして整備してきたインフラが、無用の長物となってしまう。

この傾向は今後も続く。また、実際には、人口が減るよりも前に水の需要は減っていた。

国内での水の需要のピークは2000年で、それ以降、右肩下がりが続いている。節水型の洗濯機やトイレの普及や節水意識の向上が水の需要を減らしたと見られる。無駄遣いが減るのはいいことだ。

しかし、水道事業者の視点に立てば、これは収入減を意味する。実際に、2011年には年間2.7兆円だった収入は、2016年には2.3兆円になっている。4000億円の減収だ。人口減と節水は、水道事業経営者にとっては弱り目に祟り目なのだ。

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